介護の基礎知識
通所リハビリテーション(デイケア)の運営基準をわかりやすく 人員や建物・設備基準についても解説
- 公開日:2025年10月07日
- 更新日:2025年10月07日
通所リハビリテーションを運営するには、介護保険法に基づいて定められたルールを守る必要があり、遵守することで利用者に安心・安全な介護サービスを提供することができます。通所リハビリテーションの運営基準を守らなかった場合、行政から指導や勧告を受けることがあり、改善が見られない場合には業務停止や指定取り消しといった処分につながる可能性があるため、基準の遵守は事業所の存続に直結する重要なポイントと言えます。
本ブログでは、通所リハビリテーションの運営基準や人員・建物基準、運営基準を守らなかった場合の処分についてもわかりやすく解説します。
通所リハビリテーション(デイケア)の運営基準
通所リハビリテーションの運営基準は、第110条から第118条の2までで規定されており、事業所の運営に必要な職員体制や設備、サービス提供の方法、記録の管理、苦情対応、職員研修などについて定められています。詳しい内容は以下の通りです。
第110条 基本方針
通所リハビリテーションは、利用者が要介護状態になった場合でも、できる限り自宅で自立した生活を営むことができるよう、生活機能の維持または向上を目指し、理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを行うことにより、利用者の心身の機能の維持回復を図ります。
第111条 従業者の員数
医師
常勤1名以上を配置。
ただし、介護老人保健施設または介護医療院でみなし指定を受けている場合は、介護老人保健施設または介護医療院の人員基準を満たすことで、人員基準を満たしているとみなされます。
従業者(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、准看護師、介護職員)
- 利用者の数が10人以下…サービス提供時間を通じて、 専ら通所リハビリテーションの提供に当たる従事者を1名以上配置。
- 利用者の数が10名以上…サービス提供時間を通じて、 専ら通所リハビリテーションの提供に当たる従事者を、 利用者の数を10で割った数以上配置。
例:利用者が30人の場合、30÷10=3で、3人の従事者の配置が必要になります。
また、通所リハビリテーション事業所が診療所である場合は、専ら指定通所リハビリテーションの提供に当たる理学療法士、作業療法士もしくは言語聴覚士、または通所リハビリテーションもしくはこれに類するサービスに1年以上従事した経験を有する看護師を、常勤換算方法で0.1人以上確保しなければならないことが定められています。
理学療法士、作業療法士または言語聴覚士
上記の従業者のうち、専らリハビリテーションの提供に当たる理学療法士、作業療法士または言語聴覚士を、利用者が100人またはその端数を増すごとに1名以上配置する必要があります。
第112条 設備に関する基準
建物基準
病院、または診療所であって通所リハビリテーション実施専用の部屋の設置が可能なもの、または介護老人保健施設が必要です。
リハビリ実施専用の部屋について
<病院または診療所>
通所リハビリテーションを行うにふさわしい部屋で、3平方メートルに利用者数を乗じた面積があることが必要です。(移動の困難な機材等のスペースを省いた有効面積であること)
<介護老人保健施設>
通所リハビリテーションを行うにふさわしい部屋で、3平方メートルに利用者数を乗じた面積があることが必要です。(利用者用に確保されている食堂の面積を含める)
第113条 指定通所リハビリテーションの基本取扱方針
通所リハビリテーションでは、利用者の要介護状態を改善または悪化を防止するために、目標設定と計画的なサービス提供が必要です。また、事業者自身が提供サービスの質を評価し、常に向上を図ることが求められています。
第114条 指定通所リハビリテーションの具体的取扱方針
通所リハビリテーションサービスは、以下のような具体的方針のもとで提供されなければなりません。
- 医師の指示および通所リハビリテーション計画に基づき、心身の機能の維持回復を図り、利用者が自立した日常生活を送るための支援を適切に行うこと。
- 通所リハビリテーション従業者は、懇切丁寧な対応を心がけ、利用者や家族にサービス内容を分かりやすく説明すること。
- 利用者又は他の利用者等の生命維持や身体保護のためやむを得ない場合を除いて、身体的拘束等を行ってはならない。
- やむを得ず身体的拘束等を行う場合には、その様子や時間、その際の利用者の心身の状況並びにやむを得ない理由を記録こと。
- 利用者の病状や心身状態、置かれている環境を的確に把握し、適切なサービス提供を行う。特に認知症の要介護者には必要に応じて特性に対応したサービス提供ができる体制を整える。
- 通所リハビリテーション事業者は、リハビリテーション会議を開き、利用者の状況を専門的な立場から確認し、関係者と情報を共有するよう努める。その内容を踏まえて、利用者に適切なサービスを提供する。
第115条 通所リハビリテーション計画の作成
医師などの通所リハビリテーション従業者は、診療または運動機能検査、作業能力検査などを基に利用者の心身の状況や希望、その環境を踏まえて、リハビリテーションの目標や、目標を達成するための具体的なサービス内容を記載した「通所リハビリテーション計画」を作成しなければなりません。この計画は、既存の居宅サービス計画がある場合にはそれに沿って作成され、利用者または家族への説明と同意取得、計画の交付が義務付けられています。また、従業者はサービスの実施状況およびその評価を記録する必要があります。
また、従業者は、リハビリテーションを受けていた医療機関から退院した利用者についての通所リハビリテーション計画の作成に当たっては、医療機関が作成したリハビリテーション実施計画書などにより、利用者に関するリハビリテーションの情報を把握する必要があります。
第116条 管理者等の責務
通所リハビリテーション事業所の管理者は、医師や理学療法士、作業療法士もしくは言語聴覚士または通所リハビリテーションを専門として提供する看護師のうちから選任した者に、必要な管理の代行をさせることが可能です。
指定通所リハビリテーション事業所の管理者または管理を代行する者は、指定通所リハビリテーション事業所の従業者に規定を遵守させるために必要な指揮命令を行います。
第117条 運営規程
事業所の重要事項を定めた以下のような運営規程を作成する必要があります。
- 事業の目的及び運営の方針
- 従業者の職種、員数及び職務の内容
- 営業日及び営業時間
- 指定通所リハビリテーションの利用定員
- 指定通所リハビリテーションの内容及び利用料その他の費用の額
- 通常の事業の実施地域
- サービス利用に当たっての留意事項
- 非常災害対策
- 虐待の防止のための措置に関する事項
- その他運営に関する重要事項
第118条 衛生管理等
事業所の施設や食器、設備や飲料水の衛生管理を行うとともに、医薬品や医療機器の管理を適正に行います。
また、感染症の発生・まん延を予防するために、委員会の定期的な開催、指針の整備、研修・訓練の定期的な実施などを行うことが求められます。
第118条の2 記録の整備
職員、設備、備品、会計に関する記録や、提供サービス記録などを整理し、2年間保存しなければなりません。サービス提供に関する書類は以下の通りです。
- 通所リハビリテーション計画書
- 提供した具体的なサービスの内容等の記録
- 身体的拘束を行った際の様子及び時間、心身の状況及びにやむを得ない理由の記録
- 市町村への通知に係る記録
- 苦情の内容等の記録
- 事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録
通所リハビリテーション(デイケア)の運営基準を守るために気を付けるべきポイント
通所リハビリテーションの運営基準を守るために気を付けるべきポイントは以下の通りです。
運営基準は定期的に見直す
通所リハビリテーションの運営基準は、法改正やガイドラインの更新により内容が変わることがあります。そのため、事業所は開業後も定期的に基準を確認し、必要に応じて運営ルールを見直すことが大切です。これにより、常に適切で安全なサービス提供が可能になり、実地指導や監査にも対応することができます。
職員に運営基準を周知する
運営基準を守るためには、職員全員がその内容を理解していることが重要です。基準に沿ったサービス提供、記録の作成、個人情報の管理、苦情対応など、日常業務で必要な対応を職員に周知することで、サービスの質を一定に保つことができます。研修やマニュアルを活用して、日々の業務で意識できる体制を整えることも効果的です。
運営基準の遵守などが定期的に確認される「運営指導(実地指導)」とは?
運営指導とは行政の担当者が事業所を訪れ、適正な介護保険サービスが運営されているかを定期的に調査するもので、事業所の指定有効期間内に少なくとも1回は実施されます。
運営指導の結果、違反が見つかると指定取消や効力の停止などの処罰が下される場合があります。介護事業所は、都道府県知事から指定を受けて介護保険法に基づく介護事業を運営しています。つまり、この指定が取り消されるか、効力が停止されると、介護事業所は介護保険法に基づく介護事業運営を行うことができなくなります。運営指導で引っかからないためにも、日頃から運営基準を守り、健全な運営を行うことが重要です。
通所リハビリテーションの運営指導(実地指導)で確認される標準確認文書一覧
通所リハビリテーションの実地指導で確認される書類は以下の通りです。サービスの質や適切なサービス提供のために必要な帳票類が整備されているかを確認するためにこれらの書類が確認されます。
- 平面図(行政機関側が保存しているもの)
- 重要事項説明書(利用申込者の同意があったことがわかるもの)
- 利用契約書
- サービス担当者会議の記録
- サービス提供記録
- 身体的拘束等の記録(身体的拘束等がある場合)
- 通所リハビリテーション計画(利用者の同意があったことがわかるもの)
- リハビリテーション実施計画書(医療機関作成)
- 診療記録
- 従業者の勤務体制及び勤務実績がわかるもの(例:勤務体制一覧表、勤務実績表)
- 従業者の勤怠状況がわかるもの(例:タイムカード、勤怠管理システム)
- 資格要件に合致していることがわかるもの(例:資格証の写し)
- 介護保険番号、有効期限等を確認している記録等
- 請求書
- 領収書
- 運営規程
- サービス提供記録
- 従業者の勤務体制及び勤務実績がわかるもの(例:勤務体制一覧表、勤務実績表)
- 雇用の形態(常勤・非常勤)がわかるもの
- 研修の計画及び実績がわかるもの
- 職場におけるハラスメントによる就業環境悪化防止のための方針
- 業務継続計画
- 研修の計画及び実績がわかるもの
- 訓練の計画及び実績がわかるもの
- 国保連への請求書控え
- 非常災害時の対応計画
- 運営規程
- 避難・救出等訓練の実施状況がわかるもの
- 通報、連絡体制がわかるもの
- 消防署への届出
- 感染症の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会の開催状況・結果がわかるもの
- 感染症の予防及びまん延の防止のための指針
- 感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練の実施状況・結果がわかるもの
- 個人情報の利用に関する同意書
- 従業者の秘密保持誓約書
- 苦情の受付簿
- 苦情への対応記録
- 市町村、利用者家族、居宅介護支援事業者等への連絡状況がわかるもの
- 事故に際して採った処置の記録
- 損害賠償の実施状況がわかるもの
- 虐待の防止のための対策を検討する委員会の開催状況及び結果がわかるもの
- 虐待の防止のための指針
- 虐待の防止のための研修の計画及び実績がわかるもの
- 担当者を置いていることがわかるもの
通所リハビリテーションの運営基準を守らなかった場合の処分
運営基準を満たしておらず、運営基準違反となった場合、指定取消・指定の効力停止処分の対象となります。以下では、指定取消・指定の効力停止処分とはどのような措置なのかを詳しく解説していきます。
効力の一部停止とは
介護事業所が、運営基準に違反していたり、利用者の人格を尊重する義務に違反していた場合など、介護保険法第77条に該当する重大な問題があると認められた場合、指定権者(都道府県などの行政機関)は、効力の一部停止を行うことができます。効力の一部停止とは、新規利用者の受入停止、介護報酬請求額の上限設定(期間を限定して報酬額を通常の 70%とする)などの制限が挙げられます。
このような処分を行う場合、行政手続法に基づき、次のようなルールが定められています。
- 処分の前に、事業所に「弁明の機会(意見を述べる機会)」を与える必要があります(第13条)
- 処分の基準をあらかじめ設定・公表する努力義務があります(第12条)
- 処分を行う際には、その理由を明示しなければなりません(第14条)
なお、指定効力の一部停止は、事業所にとって深刻な影響を与える一方で、利用者のサービス継続にも関わるため、処分内容の検討にあたっては、利用者保護の観点も十分に考慮されるべきです。
効力の全部停止とは
効力の全部停止とは、事業所が一定期間、介護サービスを提供できなくなる重大な措置です(介護保険法第77条第1項など)。このような処分を行う際には、以下の条件を満たす必要があります。
- 弁明の機会の付与:事前に、事業所に対して「説明や反論の機会」を設けることが法律で義務付けられています(行政手続法第13条)。
- 処分基準の設定・公表の努力:処分の判断基準をあらかじめ整備し、公表するよう努めることが求められています(行政手続法第12条)。
- 処分理由の明示:実際に効力停止を命じる場合は、その理由を文書でしっかりと伝える義務があります(行政手続法第14条)。
また、効力を停止する期間や内容の決定にあたっては、利用者への影響を最小限に抑えることが大切です。特にサービスの継続性が損なわれないよう、各自治体が丁寧に検討し対応する必要があります。
指定取消とは
介護事業所が重大な法令違反などを犯した場合、都道府県などの指定権者は「指定取消し」という最も重い行政処分を行うことができます(介護保険法第77条第1項など)。この「指定取消し」は、介護保険制度に基づくサービス提供そのものができなくなるため、事業の継続が不可能になります。
指定取消しの手続きで必要なこと
- 必ず「聴聞」を行う必要がある
指定取消しを行う際は、事業所に対し「正式な意見陳述の機会(聴聞)」を設けることが法律で義務づけられています。
※この場合、「弁明の機会」では代用できません(行政手続法第13条第1項第1号)。 - 処分基準の整備・公表が求められる
処分を行う際の判断基準を明確にし、公表するよう努めることが求められています(行政手続法第12条第1項)。 - 処分理由の提示が必要
指定取消しを通知する際には、その理由を明示する必要があります(行政手続法第14条第1項)。
指定を取り消し、又は指定の全部若しくは一部の効力を停止したときは、指定権者は介護保険法第 78 条第3項等に基づいて、事業所名、処分の内容及びその期間など介護保険法施行規則第 131 条の2等に定められた事項を公示します。
まとめ
通所リハビリテーションの運営基準は、事業所を適正に運営し、利用者が安心してサービスを受けられるようにするために定められたルールです。各基準をしっかり理解し、開設後も運営基準を定期的に見直す・職員への運営基準を周知するなど、継続的な取り組みが必要です。今回紹介した内容を参考に、安心して選ばれる通所リハビリテーション事業所の運営を目指しましょう。
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