介護の基礎知識
通所介護(デイサービス)運営で必須の法定研修項目を解説
- 公開日:2026年01月23日
- 更新日:2026年01月23日
通所介護(デイサービス)を運営するうえで欠かせないのが、法定研修の実施です。事故防止や感染症対策、虐待防止、プライバシーの保護など、いずれも現場の安全とサービスの質を守るために重要な研修ですが、どの研修項目が必須なのか分かりにくいと感じている事業所も少なくありません。
特に運営指導では、研修を実施しているかだけでなく、内容や記録が適切かまで確認されるため、形式だけ整えている状態では指摘を受ける可能性もあります。この記事では、通所介護(デイサービス)運営で必須となる法定研修の項目について、それぞれの位置づけや実施時のポイントを分かりやすく解説します。「最低限押さえるべき研修項目を整理したい」「運営指導対策として確認しておきたい」という方は、ぜひ参考にしてください。
介護の法定研修とは?
介護の法定研修とは、介護保険法や関係法令に基づき、介護事業所が実施を義務づけられている研修のことです。利用者が安心・安全にサービスを受けられるよう、職員の知識や意識を一定水準以上に保つことを目的としています。これらの研修は、実施を行い、職員の教育に生かすことが重要なだけでなく、実施記録を残し、運営指導(実地指導)で確認される項目でもあります。そのため、計画的な実施と記録管理が欠かせません。
法定研修が必要とされる理由
介護の現場では、事故や感染症、虐待、プライバシー侵害など、ひとつの判断ミスが利用者の生活や事業所の信頼に大きな影響を与えるリスクがあります。法定研修は、こうしたリスクを未然に防ぐために、職員一人ひとりが共通の理解と正しい知識を持つことを目的として位置づけられています。
また、介護に関する制度や運営基準は、法改正や通知によって定期的に見直されます。法定研修を継続的に実施することで、最新のルールや考え方を現場全体で共有し、誤った対応や自己流の判断を防ぐ役割も果たします。
さらに、法定研修は運営指導対策としても重要です。運営指導では「研修を行っているか」だけでなく、内容が具体的か、事業所の実態に即しているか、記録が適切に残されているかまで確認されます。研修が形骸化している場合、改善指導の対象となることも少なくありません。
通所介護(デイサービス)で実施すべき法定研修の項目と頻度や根拠
通所介護事業所では、主に以下の項目の法定研修が義務付けられています。運営基準では「必要な研修を行うこと」のように記載がされており、はっきりと明文化されていないものも多いため、研修のタイトルや内容は必ずしも以下のものを遵守する必要はありません。(各自治体のルールに従って指導がされます)。
| 法定研修 | 実施頻度 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 業務継続計画(BCP)研修 | 年1回以上 | 運営基準(第30条の2準用) |
| 高齢者虐待防止、関連法含む虐待防止に関する研修 | 年1回以上 | 運営基準(第 37 条の 2)(減算対象) |
| 感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための研修 | 年1回以上 | 運営基準(第 104 条) |
| 身体拘束の排除の取り組みに関する研修 | 年1回以上 | 運営基準(第 3 条)高齢者虐待防止法から必須と評価(減算対象) |
| 認知症ケアに関する研修 | 年1回以上 | 2021年度の報酬改定で義務化 |
| 事故の発生、予防、再発防止に関する研修 | 年1回以上 | 事故対応への体制整備(運営基準解釈) |
| 緊急時の対応に関する研修 | 年1回以上 | 避難訓練は運営基準項目に関係する実務指導事項として扱われるため必須とみなされることが多い |
| プライバシーの保護に関する研修 | 年1回以上 | 運営基準や介護サービス情報公表制度に関する確認項目として評価対象に含まれることが多い |
| 倫理・法廷遵守に関する研修 | 年1回以上 | 運営基準に基づく職員教育事項として扱われる |
以下では各法定研修の概要について詳しく見ていきます。
業務継続計画(BCP)研修
介護の業務改善計画(BCP)とは、自然災害や感染症の流行などの緊急事態が発生した際にも、介護サービスの提供を中断せず、または速やかに再開できるようにするための具体的な指針や行動計画をまとめたもので、2024年度の介護報酬改定より通所系・訪問系の施設では年1回以上の実施が義務化されました。研修は「知識の共有」と「判断力の向上」を目的に、以下のような内容を実施します。
- 防災意識の啓発
・過去の災害事例を紹介し、施設で起こりうる影響を共有「自分は関係ない」と思わない意識改革を促す
・自宅の防災対策(備蓄・家具の固定)にも目を向ける - BCPのルールやマニュアルの理解
・災害時・感染症発生時の行動フローを説明
・「いつ・誰が・何をするか」を明確に
・参集基準(出勤判断の基準)、行動基準(避難誘導の判断)などを周知 - 安否確認方法の習得
・利用者や職員の安否確認方法(名簿・部屋配置図の確認など)
・連絡手段が使えない場合の代替策(SNS、伝言ダイヤル等) - 感染対策の基本教育
・手指衛生、マスク・ガウンの着脱手順
・感染症発生時の対応手順(ゾーニング、隔離、報告)
高齢者虐待防止、関連法含む虐待防止に関する研修
令和6年4月以降、通所系・訪問系の施設において、高齢者虐待防止研修の実施が必須となっており、新規採用後1か月以内に基礎的な内容の研修の受講が必要です。①虐待防止委員会の設置、②指針の整備、③定期的な研修の実施、④担当者の配置の4つ全てを満たさなければ虐待防止措置未実施減算が適用されます。
研修では、高齢者虐待防止法の理解をはじめ、
- 虐待の種類と具体例
- 早期発見のポイント
- 発生時の対応方法や通報義務
などについて確認します。
感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための研修
感染症対策の基本知識や標準予防策、食中毒の予防方法、緊急時の対応手順などを学ぶ研修です。新型コロナウイルス感染症を含め、最新の感染症対策を踏まえた研修が求められています。
身体拘束の排除の取り組みに関する研修
通所介護事業所では、身体拘束の排除の取り組みに関する研修の年1回以上の研修実施および新規採用時の研修が義務付けられています。身体拘束の定義や原則、適正化のための指針、やむを得ず行う場合の要件などについて学びます。
あわせて、
- 身体拘束適正化検討委員会の開催(年1回以上)
- 全職員への周知・徹底
を行う必要があります。
認知症ケアに関する研修
認知症の基礎的な理解を深め、適切なケアを行うための研修です。
具体的には、以下の内容を学びます。
- 認知症の特徴や進行
- 認知症ケアの基本原則
- BPSD(行動・心理症状)への対応
- 家族への支援
通所介護では認知症の利用者も多く、全職員の共通理解が重要です。
事故の発生、予防、再発防止に関する研修
転倒・誤嚥・誤薬など、介護現場で起こりやすい事故を防止するための研修です。事故の発生要因やリスクアセスメントの方法、事故発生時の対応、再発防止策の検討などを行います。ヒヤリ・ハット事例の共有や分析を含め、継続的な取り組みが求められます。
緊急時の対応に関する研修
火災や地震などの災害発生時に備え、緊急時の対応に関する研修の実施が義務付けられています。避難経路の確認、利用者の安全確保、職員の役割分担などを、実践的に確認します。
プライバシーの保護に関する研修
秘密保持義務や個人情報の適切な取り扱いを周知・徹底するための研修です。例えば以下のような内容を確認します。
- 個人情報とプライバシー
- 個人情報等に関する法令
- 介護現場におけるプライバシー
- ご利用者の尊厳とプライバシー
倫理・法廷遵守に関する研修
倫理とは社会生活で人の守るべき道理・人が行動する際の規範となるものです。
- 介護職に求められる「倫理観」
- 介護職員の責務
- 法令遵守
などについて学びます。
研修を行う方法
研修の方法は、事業所メンバーだけで行うものから、外部講師を招いて行う方法もあります。研修の方法について以下にてご紹介します。
事業所メンバーでの研修
同じ事業所に勤務するスタッフ同士で行う研修です。日頃から顔を合わせているメンバーで学ぶことで、意見交換もしやすく、実際の業務に直結した内容を共有しやすいのが特長です。事例をもとにした話し合いやロールプレイなどを取り入れることで、チーム全体の連携力や対応力を高めることができます。新人職員のフォローやベテランの経験共有の場としても効果的です。
外部講師による研修
施設内での研修に、医師や看護師、理学療法士、管理栄養士など外部の専門職を講師として招く形式です。専門的な知見を現場で直接学べる機会として、介護職員の知識向上や意識改革に効果的です。実技を交えた実践的な研修や、最新の医療・介護トピックを取り入れた講義など、質の高い学びが期待できます。
オンラインでの勉強会
インターネットを活用し、Zoomや専用のeラーニングシステムなどを通じて行う研修方法です。時間や場所にとらわれず、自分のペースで学べるのが大きな特長です。録画視聴によって復習もできるため、知識の定着にもつながります。感染症対策や遠方研修への参加が難しい場合にも有効です。
法定研修の年間計画の立て方
法定研修を効果的に実施するためには、年間を通じた計画的な研修体制を整えることが重要です。あらかじめ年間スケジュールを作成しておくことで、研修漏れを防ぐだけでなく、職員の負担軽減や運営指導対策にもつながります。
年間研修計画表のフォーマットに、法令上の決まりはないため、各事業所の実情に合わせて作成して問題ありませんが、次の項目は盛り込むと良いでしょう。
- 実施月
- 研修科目(研修名)
- 講師・担当者(内部研修の場合)
- 受講対象者
これらを明確にしておくことで、「いつ・誰が・何を学ぶ研修なのか」が一目で分かる計画表になります。
四半期ごとに分けた年間研修計画例
年間を4つの期間に分けて研修を配置すると、無理なく実施しやすくなります。
- 第1四半期(4~6月)
業務継続計画(BCP)研修・認知症ケアに関する研修・感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための研修 - 第2四半期(7~9月)
身体拘束の排除の取り組みに関する研修・高齢者虐待防止、関連法含む虐待防止に関する研修 - 第3四半期(10~12月)
事故の発生、予防、再発防止に関する研修・緊急時の対応に関する研修・プライバシーの保護に関する研修 - 第4四半期(1~3月)
倫理・法廷遵守に関する研修・年度総括・次年度研修計画の準備
このように分散させることで、研修が特定の時期に集中するのを防げます。
効率的な研修実施のポイント
必要な研修は多くあるため、研修の進め方を工夫することが重要です。例えば、「虐待防止」と「身体拘束廃止」を組み合わせた複合研修を実施することで研修回数を抑えつつ、必要な内容を網羅できます。また、外部講師に依存せず、管理者や経験豊富な職員が講師を務めることで、コストを抑えながら、現場に即した研修を行うことも可能です。
運営指導で指摘されやすい法定研修の注意点
法定研修について、よくある運営指導で引っかかるケースと対策を解説します。
研修記録が不十分なケース
研修記録に「研修実施」とだけ記載されており、具体的な研修内容や参加者が分からない記録は、指摘対象となります。
運営指導では、
- いつ実施したのか
- 誰が参加したのか
- どのような内容を学んだのか
といった点が確認されます。
対策として、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を意識した記録作成を徹底しましょう。
計画は立てたが実施していないケース
年間研修計画表は作成しているものの、
- 実際には研修を実施していない
- 実施したが記録が残っていない
といったケースも、よくある指摘事項です。対策としては、
- 定期的に研修の進捗を確認する
- 実施後すぐに記録を残す
- 研修実施チェックリストを作成する
- 運用マニュアルを整備する
といった運用を行い、計画と実績のズレを防ぐことが重要です。
一部の職員の外部研修参加を「内部研修」として扱っているケース
一部の職員が外部研修やオンラインセミナーに参加しただけでは、事業所としての法定研修を実施したことにはなりません。外部研修の内容を法定研修として扱う場合は、伝達研修を実施し、全職員が学習できる体制を構築する必要があります。
まとめ
通所介護(デイサービス)における法定研修は、単なる形式的な義務ではなく、事故防止や利用者の尊厳を守り、職員が安心して働くための土台となる重要な取り組みです。運営指導の対策としては、「年1回以上などの実施頻度を守ること」「実施日・内容・参加者が分かる研修記録を適切に残すこと」を押さえた研修を行うことが重要です。「研修は実施しているのに指摘を受けてしまった」というケースの多くは、記録不足や内容の不明確さが原因です。法定研修の項目を正しく理解し、計画的に実施・管理することで、運営指導への備えだけでなく、日々のサービスの質向上にもつながります。
本記事を参考に、自事業所の研修体制を一度見直し、指摘されにくい運営と安心できる現場づくりにつなげていきましょう。