介護の基礎知識
転倒転落のケアプラン|短期・長期目標の書き方や例文
- 公開日:2025年10月22日
- 更新日:2025年10月22日
高齢者介護の現場では、「転倒・転落」は最も身近でありながら重大な事故のひとつです。骨折や寝たきりにつながるリスクがあるため、ケアプランを作成する際には、利用者ごとの転倒リスクを正しく把握し、適切な目標を立てることが欠かせません。特に「長期目標」と「短期目標」を具体的に設定することで、職員間で支援内容を共有しやすくなり、事故の予防にもつながります。本記事では、転倒・転落のケアプランにおける目標の書き方や、実際に使える例文をご紹介します。
転倒転落のケアプランを立案する前に確認すべきこと
転倒転落のケアプランを立案する前に確認すべきことは以下の通りです。
認知症や筋力低下など根本の要因を整理する
「転倒転落を起こさない」ことを長期目標とした場合、事故や再発を防ぐには、転倒転落が起きる根本の原因を理解し、それに合わせた短期目標を立てることが重要です。要因の例は以下の通りです。
| 種別 | 転倒転落の要因 |
|---|---|
| 患者 |
● 認知症による理解力・注意力・判断力の低下 ● 筋力低下による歩行能力の低下 ● 夜間頻尿による行動頻度の増加 ● ドレーン類や尿カテーテルによる転倒リスク ● 睡眠剤・鎮痛剤によるふらつき |
| 職員 |
● 転倒転落リスクの関連因子の理解不足 ● 離床センサー類の設置の不十分 ● 入院・転入患者のオリエンテーション不足 ● 睡眠剤導入後の観察不足 ● ポータブルトイレの設置場所の不備 |
| 施設 |
● 夜間照明の不足 ● すべりやすい・つまずきやすい床 ● ナースコールや床頭台の位置が不適切 |
利用者の特性を考慮する
利用者の特性や個別性を踏まえることも大切です。患者さん一人ひとりの性格や自宅環境、生活歴は異なるため、画一的な対応では十分とは言えません。たとえば、遠慮がちな性格の方であれば、介助が必要な場面でも介護師を呼ばずに無理をしてしまい、転倒や転落につながる恐れがあります。また、退院後に独居となる場合には、自宅環境や日常生活動作(ADL)に応じたリハビリや介護用具の導入、適切なサービス調整が求められます。また、人が訪ねてくることで気疲れしてしまう方であれば、できるだけ同じ職員が担当するなど、精神的な負担を軽減する工夫も必要でしょう。このように、現病歴や既往歴だけでなく、性格や生活歴、自宅での生活状況といった個別性を考慮することで、より個人の特性に則した短期・長期目標を設定することができます。
転倒転落のケアプランの長期目標・短期目標の例文
ケアプランを作成するうえで欠かせないのが、利用者の生活に沿った長期目標と短期目標の設定です。長期目標は半年~1年を見据えた生活の姿、短期目標は1〜3ヵ月で達成できる行動を指します。
以下ではケース別にケアプランの長期目標・短期目標の文例を課題別にご紹介します。
転倒転落の原因が認知症の場合の長期目標・短期目標例文
| 生活全般の解決すべき課題(ニーズ) | 長期目標 | 短期目標 | サービス内容 |
|---|---|---|---|
| 認知症による注意力低下もあり、転倒の危険がある。 | 安全に移動でき、家庭内でも転倒を防げる。 | 通所時にリハビリを継続し、歩行が安定する。 | 機能訓練指導員による個別リハ、歩行訓練。 |
| 認知症が原因で部屋の片付けや掃除ができず、転倒や衛生面の不安がある。 | 転倒転落を起こさず、清潔で安全な環境で生活を続ける。 | 訪問時に掃除・整理を行い、生活環境を整える。 | 居室・台所・トイレの清掃、ゴミ出し。 |
| 空間認識が難しくなってきた。段差昇降に支援が必要。 | 転倒せずに昇降できる。 | 手すりを活用して安全に昇降する。 | 置き型式手すりのレンタル。 |
| 歩行や移動時に認知症の影響で不安や混乱があり、転倒・転落の危険があるため、安全に生活できるよう支援してほしい。 | 本人が安心して日常生活を送り、転倒・転落を繰り返すことなく安定した生活を維持できる。 | 移動時に焦らず、見守りのもとで落ち着いて行動できる。 | 歩行や立ち上がりの際に声かけを行い、安全を確認する。 |
転倒転落の原因が筋力低下による歩行能力の低下の場合の長期目標・短期目標例文
| 生活全般の解決すべき課題(ニーズ) | 長期目標 | 短期目標 | サービス内容 |
|---|---|---|---|
| 歩行が不安定で転倒のリスクがある。 | 自立して安全に歩行できるようになる。 | 杖や歩行補助具を使用して短距離歩行ができる。 | 歩行訓練、筋力強化運動、バランス訓練、介助・見守り。 |
| 立位や歩行時のバランスが不安定。 | 転倒リスクを減らし、安全に歩行できる。 | 歩行器や壁などの支えを使って短距離歩行が可能になる。 | バランス訓練、転倒予防プログラム、歩行補助。 |
| 筋力低下により立ち上がりや歩行中の転倒リスクが高い。 | 筋力を維持・向上させて安全に歩行できる。 | 週2~3回の筋力トレーニングを継続する。 | 筋力トレーニング、歩行補助、転倒予防指導。 |
転倒転落を事業所側で防止する必要がある場合の長期目標・短期目標例文
| 生活全般の解決すべき課題(ニーズ) | 長期目標 | 短期目標 | サービス内容 |
|---|---|---|---|
| 外出時に迷ったり、転倒や事故が心配。 | 安心して外出できるようになる。 | スタッフや家族の付き添いで短時間外出できる。 | 付き添い介助、歩行補助、事前の安全確認。 |
| 居室や共用スペースの環境により、つまずきやすく転倒の危険があるため、安全な環境で生活したい。 | 本人が安心して施設内を移動でき、転倒事故が起きない生活を維持できる。 | 居室・共用スペースの動線から転倒要因となる物品を取り除く。 居室内の照明や手すりを整え、安全に移動できる環境を整備する。 | 居室・廊下の整理整頓を日常的に確認する。 |
| 服薬の副作用によりふらつきがあり、転倒の危険を減らしたい。 | 本人が副作用によるふらつきに配慮しつつ、安全に生活できる。 | 起立や歩行時にふらつきが見られた際、職員がすぐに介助できる体制を整える。 薬の影響による体調変化を日々観察し、看護師と連携して対応する。 トイレや入浴などふらつきやすい場面で、転倒せずに安全に過ごせる。 | 起立・歩行時に見守りや声かけを行う。転倒リスクの高い場面では職員が付き添い、介助を行う。 |
| 視力低下により段差や障害物を認識しづらく、転倒の危険があるため、安全に生活できるようにしたい。 | 本人が環境に適応し、転倒事故なく生活を継続できる。 | 段差や階段などで職員の声かけを受け、安全に移動できる。 廊下や居室の障害物をなくし、安全な動線を確保する。 居室・共用部の照明を整え、本人が見やすい環境で過ごせる。 | 移動時に職員が声かけや付き添いを行う。 動線の整理整頓を徹底し、転倒リスクを減らす。 必要に応じて照明を明るくし、視認性を高める。 |
転倒転落の原因が日常生活によるものの場合の長期目標・短期目標例文
| 生活全般の解決すべき課題(ニーズ) | 長期目標 | 短期目標 | サービス内容 |
|---|---|---|---|
| 入浴中の転倒や滑りのリスクが高い。 | 転倒リスクを減らし、安全に入浴できる。 | 手すりや介助を使って安全に浴室に入れる。 | 介助付き入浴、手すり・滑り止め使用、見守り。 |
| 入浴やトイレの動作中に転倒や事故の危険がある。 | 安全に入浴・排泄動作を行える。 | 必要な時にスタッフの見守り・介助を受けられる。 | 入浴・排泄時の介助・見守り、転倒防止策、環境調整。 |
| 入浴中の転倒リスクが高い。 | 転倒せずに安全に入浴できるようになる。 | 浴室まで安全に歩いて行けるようになる。 | 入浴・排泄時の介助・見守り、転倒防止策、環境調整。 |
転倒転落の原因が精神的なものの場合の長期目標・短期目標例文
| 生活全般の解決すべき課題(ニーズ) | 長期目標 | 短期目標 | サービス内容 |
|---|---|---|---|
| 外出時に迷ったり、転倒や事故が心配。 | 安心して外出できるようになる。 | スタッフや家族の付き添いで短時間外出できる。 | 付き添い介助、歩行補助、事前の安全確認。 |
まとめ
転倒・転落予防のケアプランでは、利用者本人の状態や環境要因を踏まえたうえで、長期目標と短期目標を段階的に設定することが重要です。長期目標では「安全に生活できる姿」をイメージし、短期目標では「声かけに応じる」「見守り下で安全に移動できる」など具体的な行動に落とし込むと、実践につながりやすくなります。また、事業所側の環境整備や見守り強化など、本人の努力だけに依存しない視点も大切です。現場で活用できるケアプラン例を参考に、それぞれの利用者に合わせた計画を立て、安心・安全な生活を支えていきましょう。