介護の基礎知識
介護施設の監査に引っかかるとどうなるの?処分や手続きを解説
- 公開日:2025年08月06日
- 更新日:2025年08月06日

介護施設を運営していると、避けて通れないのが「監査」です。監査とは、事業所が法令や基準に則って適切に運営されているかを行政機関などが確認するもので、定期的に行われる実地指導よりも厳しいチェックが行われます。
もし監査で違反や不適切な運営が見つかると、改善指導から勧告、命令、最悪の場合は指定取消しまで、事業継続に直結する深刻な影響を受ける可能性があります。本記事では、監査のきっかけや指摘される主な項目、違反が見つかった場合の流れ、想定される処分の種類をわかりやすく解説します。
今後の運営に不安を感じている方、過去に指導を受けたことがある方にとっても、リスクを最小限に抑えるための知識としてお役立ていただければ幸いです。
介護施設における監査とは?
介護業界における「監査」とは、介護保険制度に基づいてサービス提供が適正に行われているかどうかを確認・評価する公的なチェックのことです。主に都道府県や市区町村などの行政機関が実施し、運営状況や介護報酬の請求内容が適正かどうかを調べます。
介護報酬は国や自治体の公費が使われるため、不正や誤請求を未然に防ぐための重要な制度と位置付けられています。
介護施設の監査と実地指導の違い
介護事業所に対して行われる「監査」と「実地指導」は、いずれも行政によるチェックですが、その目的や実施の背景、対応の重さには明確な違いがあります。
実施の目的
実地指導は、事業者が指定基準を遵守し、適切な介護サービスを提供するとともに、正確な介護報酬の請求を行うことを目的として実施されます。そのため、原則としてすべての事業所を対象にランダムで行われます。
一方、監査は、収集した情報から人員基準や設備基準、運営基準などの指定基準違反や不正請求が確認された場合、またはその疑いがある場合に実施されます。
また、監査は運営基準等の指定基準違反や不正請求の疑いに基づいて行われることから、調査内容もそれに応じて具体的かつ厳しい場合が多いです。
事前通知のあり・なし
監査は通常、事前通知が行われないことがほとんどです。しかし、仮に事前通知がある場合には、実地指導とは異なる根拠条文が明確に記載されています。
一方で、実地指導であっても、まれに事前通知が行われないケースがあります。事前通知がなく行政の担当者が事業所を訪問した際には、実地指導と監査の用語を正確に使い分けていない場合があるため、必ず根拠条文を確認するようにしてください。
介護施設の監査が行われるきっかけとは?

介護事業所に対する「監査」は、事業運営が適正に行われているかを確認するために、自治体や行政機関が実施する重要なプロセスです。特に以下のようなきっかけで、監査が実施されることがあります。
1. 運営指導(実地指導)からの発展
通常の「運営指導(旧:実地指導)」で重大な不備や不正の兆候が見つかった場合、行政側がより詳細な調査の必要性を感じ、正式な監査へと移行するケースがあります。たとえば、加算の不適切な算定や記録の未整備が繰り返されている場合などです。
2. 職員からの内部告発
現場職員や退職者などから、匿名・実名問わず「不正請求」「虚偽記録」などの通報があった場合、それがきっかけで監査に発展することがあります。特に複数名からの同様の通報がある場合や、具体的な証拠が伴う場合は、行政側も調査に踏み切る傾向にあります。
3. 利用者やその家族からの通報
利用者やご家族からの「サービスが計画どおり提供されていない」「職員の対応が不適切だった」「契約内容と違う請求が届いた」などの声も、行政が監査を行う動機になります。実際、サービス内容や加算の正当性を問う声がきっかけになることは少なくありません。
4. 周辺住民からのリーク
地域住民や関係者からの通報も、行政が関心を寄せるケースのひとつです。たとえば、「深夜に不審な出入りがある」「送迎が危険な運転をしている」など、事業運営に対する疑念が寄せられた場合、自治体が事実確認のために監査を行う場合があります。
介護施設の監査ではどんなことが調査・指摘される?

介護事業所に対する監査では、事業運営が法令・基準に沿って行われているかを重点的にチェックされます。特に次のような項目が調査・指摘の対象となることが多く、日頃からの準備が重要です。
事業類型を問わず調査・指摘されること
事業類型を問わず、指摘される事項として特に多いのは介護報酬の算定に関する問題ですが、それ以外にも以下のような点がよく指摘されます。
- 介護報酬の算定に誤りや不備があるため、是正すること
- 人員基準を遵守した職員配置を行うこと
- 秘密保持のために必要な措置を講じること
- 適切な勤務体制を確保すること
- サービス計画を適切に作成すること
- 変更があった事項について速やかに届出を行うこと
- 掲示物が適切に掲示されていること
居宅系サービスで指摘されること
居宅系サービスでは、ケアプランやそれに基づく具体的な計画、さらに計画に基づいたサービス提供の整合性が特に重視されます。また、サービス内容の変更時に必要な手続きに誤りや失念があることが多いため、これに関する指摘も頻繁に行われます。
具体的には、以下のような点が重要視されます。
- 居宅サービス計画の内容に沿った計画を作成し、それに基づいてサービスを提供すること
- 提供したサービスの具体的な内容などを正確に記録すること
- アセスメントを適切に実施し、その結果をもとに計画の作成や変更を行うこと
- 1か月に1回以上、モニタリングを実施し、その結果を記録すること
- 担当者から専門的見地に基づく意見を求め、その要点を記録すること
施設系サービスで指摘されること
監査に引っかかるとどうなる?

監査に引っかかり、違反が見つかった場合どのような措置が取られるのでしょうか。以下にて処分が軽い順に紹介していきます。
行政指導
監査の結果、事業所の運営に改善が必要と判断された場合は、通常の「行政指導」によって是正が求められます(行政手続法第2条第6号を参照)。
行政指導の方法には、口頭での注意や助言、改善報告書の提出を求めるといったさまざまな対応が含まれます。この行政指導は、必ずしも法律に明確な根拠がなくても実施することができます。
勧告
勧告とは、介護事業所に対して、法令や基準に違反している事項を改善するよう、指定権者(都道府県や市区町村など)が期限を設けて是正を求める行政指導の一つです。いわば「改善を促す公式な要請」であり、通常の助言や注意よりも強い性格を持っています。主に、以下のような場合に勧告が行われます。
- 人員配置基準や運営基準に違反している場合
- 廃止・休止の際に、利用者へのサービス継続のための対応(便宜提供)がなされていない場合
- 指定時に付された条件を守っていない場合
なお、「不正請求」や「利用者の人権侵害」などの重大な違反については、別途より厳しい措置(命令や指定取消し等)の対象となるため、勧告の対象にはなりません。勧告に従わず、改善措置が講じられなかった場合、指定権者はその事実を公表することができます(ただし、公表は義務ではありません)。さらに、正当な理由なく改善が行われなければ、より厳しい処分である「命令」に移行することになります。
命令
介護事業所が勧告に応じず、必要な改善措置を行わなかった場合、指定権者(都道府県や市区町村など)は、その改善措置を「命令」という形で正式に指示することができます(介護保険法 第76条の2 第3項)。
この「命令」は、勧告よりも一段階強い行政処分となり、命令が出された場合には、事業所名や内容などを公示(インターネット等での公開)することが義務付けられています(同条第4項)。
また、「命令」は事業所にとって不利益を伴う正式な処分とされるため、行政手続法に基づく以下のルールが適用されます。
- 処分の基準はあらかじめ設定・公表するよう努めること(第12条)
- 命令の前には、事業所側に「弁明の機会(言い分を述べる機会)」を与えること(第13条)
- 命令を出す際には、その理由を明確に示すこと(第14条)
つまり、「命令」は一定の法的手続きに基づいて行われる厳正な対応であり、事業所にとっては非常に重要な転機となります。改善勧告の段階で真摯に対応することが、命令回避の鍵となります。
効力の一部停止
介護事業所が、指定基準に違反していたり、利用者の人格を尊重する義務に違反していた場合など、介護保険法第77条に該当する重大な問題があると認められた場合、指定権者(都道府県などの行政機関)は、効力の一部停止を行うことができます。効力の一部停止とは、新規利用者の受入停止、介護報酬請求額の上限設定(期間を限定して報酬額を通常の 70%とする)などの制限が挙げられます。
このような処分を行う場合、行政手続法に基づき、次のようなルールが定められています。
- 処分の前に、事業所に「弁明の機会(意見を述べる機会)」を与える必要があります(第13条)
- 処分の基準をあらかじめ設定・公表する努力義務があります(第12条)
- 処分を行う際には、その理由を明示しなければなりません(第14条)
なお、指定効力の一部停止は、事業所にとって深刻な影響を与える一方で、利用者のサービス継続にも関わるため、処分内容の検討にあたっては、利用者保護の観点も十分に考慮されるべきです。
効力の全部停止
効力の全部停止とは、事業所が一定期間、介護サービスを提供できなくなる重大な措置です(介護保険法第77条第1項など)。このような処分を行う際には、以下の条件を満たす必要があります。
- 弁明の機会の付与:事前に、事業所に対して「説明や反論の機会」を設けることが法律で義務付けられています(行政手続法第13条)。
- 処分基準の設定・公表の努力:処分の判断基準をあらかじめ整備し、公表するよう努めることが求められています(行政手続法第12条)。
- 処分理由の明示:実際に効力停止を命じる場合は、その理由を文書でしっかりと伝える義務があります(行政手続法第14条)。
また、効力を停止する期間や内容の決定にあたっては、利用者への影響を最小限に抑えることが大切です。特にサービスの継続性が損なわれないよう、各自治体が丁寧に検討し対応する必要があります。
指定取消
介護事業所が重大な法令違反などを犯した場合、都道府県などの指定権者は「指定取消し」という最も重い行政処分を行うことができます(介護保険法第77条第1項など)。この「指定取消し」は、介護保険制度に基づくサービス提供そのものができなくなるため、事業の継続が不可能になります。
指定取消しの手続きで必要なこと
- 必ず「聴聞」を行う必要がある
指定取消しを行う際は、事業所に対し「正式な意見陳述の機会(聴聞)」を設けることが法律で義務づけられています。
※この場合、「弁明の機会」では代用できません(行政手続法第13条第1項第1号)。 - 処分基準の整備・公表が求められる
処分を行う際の判断基準を明確にし、公表するよう努めることが求められています(行政手続法第12条第1項)。 - 処分理由の提示が必要
指定取消しを通知する際には、その理由を明示する必要があります(行政手続法第14条第1項)。
指定を取り消し、又は指定の全部若しくは一部の効力を停止したときは、指定権者は介護保険法第 78 条第3項等に基づいて、事業所名、処分の内容及びその期間など介護保険法施行規則第 131 条の2等に定められた事項を公示します。
介護報酬の返還、加算金
監査の結果、事業所が虚偽の申告やその他不正な行為によって保険給付を受けていたことや、報酬請求の要件を満たしていないことが明らかになった場合、市町村はその者から給付の全額または一部を徴収することができます。
さらに、不正な行為により受けた保険給付が以下の事業所のものであった場合、市町村は、厚生労働大臣が定める基準に従い、事業所から不正に受けた額の200%に相当する額を徴収することができます。
- 特定入所者介護サービス費
- 特例特定入所者介護サービス費
- 特定入所者介護予防サービス費
- 特例特定入所者介護予防サービス費(介護保険法22条1項)
また、市町村は、以下の指定事業者が虚偽や不正な行為で法定代理受領サービスを通じて介護給付支払を受けた場合、その支払額に加えて、返還すべき額の40%を徴収することができます。
- 指定居宅サービス事業者
- 指定地域密着型サービス事業者
- 指定居宅介護支援事業者
- 介護保険施設
- 指定介護予防サービス事業者
- 指定地域密着型介護予防サービス事業者
- 指定介護予防支援事業者(介護保険法22条3項)
具体的なケースとしては、介護サービスの提供が書類上認められない場合や、加算要件が満たされていないのに加算が受けられていた場合など、返還や加算金に関する問題が発生することがあります。
介護施設の監査に引っかかった際の手続き

監査の結果、重大な違反が認められた場合、介護施設には行政処分が下されることがあります。その際に重要となるのが「聴聞」や「弁明の機会の付与」といった、事業所側に意見を述べる機会が設けられる手続きです。
この章では、聴聞や弁明の機会の手続きの進め方について、基本的な流れをわかりやすく解説します。
聴聞手続きの流れ

監査の結果、指定の取消しに相当する場合に、行政手続法13条1項1号に従って、聴聞手続が取られます。聴聞とは不利益処分を受ける者が、行政庁に対して口頭で「言い分や反論」を伝えるための手続きです。聴聞手続の手順は以下の通りです。
①聴聞通知書
まずは聴聞通知書が届きます。聴聞通知書には以下の項目が記載されています。
- 予定される不利益処分の内容・根拠法令の条項
- 聴聞の期日・場所
- 聴聞に関する事務を所掌する組織の名称・所在地
聴聞通知書が届いてから聴聞期日までは基本的には相当な期間が設けられていますが、数日の場合もあります。
②聴聞期日
不利益処分が課される事業所は、聴聞が開かれる日時までに、意見書・証拠を提出して、不利益処分原因事実などの事実関係や法令解釈に関する意見を主張します。聴聞手続当日は、不利益処分をする行政機関の職員からの説明、事業者等の口頭による意見陳述・質問などが行われます。
③聴聞調書・報告書作成
聴聞を主宰する職員は、聴聞手続の経過を記載した聴聞調書及び不利益処分原因事実に係る不利益処分をする行政機関の職員・事業者の主張に理由があるかどうかを記載した報告書を作成し、行政庁(処分権限を有する市長など)に提出します。
④処分の決定
行政庁は提出された報告書を参考に、不利益処分をするかしないか、不利益処分をするとしてどのような内容とするかを決定します。
弁明の機会の手続きの流れ

弁明の機会とは、聴聞と同じく、不利益処分を受ける者が、行政庁に対して「言い分や反論」を伝えるための手続きです。聴聞は、口頭審理なのに対して、弁明の機会は書面審理にて行います。つまり、弁明の機会の付与は、聴聞をより簡略化した手続きと言えます。
聴聞か弁明の機会か、どちらの方法で手続きを行うかは処分の重さによります。例えば、免許取消処分は聴聞が必要ですが、業務停止処分や指示処分の場合は、原則として弁明の機会の付与で足ります。
①通知書
弁明の機会ではまず、予定される不利益処分の内容・根拠法令、不利益処分原因事実、弁明書の提出先・提出期限が記載された通知書が届きます。
②弁明書の準備・提出
その後、不利益処分が課される予定の事業所は弁明書を提出することで言い分を主張します。
このように、弁明の機会は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、書面の提出によって行われ(行政手続法29条)、文書閲覧権も認められていない等、聴聞に比べて略式の手続です。
監査による介護事業所への処分を軽減・回避する方法は?

監査による介護事業所の指定取消・指定の効力停止処分を軽減または回避するための方法を、以下の3つのパターンに分けて解説します。
1. 処分の対象になったが、まだ処分を受けていない場合
行政からの通知内容に事実と齟齬がある場合、指定取消の場合は「聴聞」の際、指定の効力停止の場合は「弁明書提出」の際に十分な弁明を行いましょう。そのためには通知内容を詳細に読み込み、徹底した事実確認を行うことが重要です。また、予定されている処分については、差し止めるために訴訟を提起することも可能です。
2. すでに処分を受けた場合
処分を受けた後でも、行政不服審査法に基づいて行政不服審査請求を行い、争うことができます。ただし、請求期間は処分日から3ヶ月以内と定められているため、注意が必要です。さらに、処分日から6ヶ月以内であれば、行政事件訴訟法に基づいて処分の取消訴訟を提起することも可能です。この際、同時に処分の執行停止を申し立てることで、取消訴訟中に介護報酬を受け取り、介護サービスを継続提供することができます。
3. 未然に処分を回避したい場合
指定取消や指定の効力停止の原因となる事由は、主に以下の4つです。
- 運営指導(実地指導)
- 利用者からの通報
- 職員からの通報
- 周辺住民からの通報
これらの事由が発生する前に、日頃から適正に運営を行っていれば問題はありませんが、未然に処分を回避するためには、運営・人員・設備の指定基準を十分に理解し、利用者やそのご家族、職員、地域住民との円滑なコミュニケーションが重要です。定期的に基準を守っているか自己点検を行い、遵守した健全な事業運営を心掛けましょう。
また、ケアプランや介護計画、介護記録に基づき、提供サービスの内容と請求内容が一致しているかを確認することも大切です。正確な請求が行われているかどうか、申請内容や各種書類を見直し、誤請求が見つかった場合には速やかに行政に過誤申し立てを行いましょう。運営指導で改善勧告を受けた際には、速やかに改善策を実施し、業務の見直しを徹底しましょう。
まとめ

監査で問題が見つかった場合、行政指導後の改善がなされない場合や悪質と判断された場合には、命令や指定取消といった重大な処分につながる可能性もあります。
日頃から法令や制度の改正内容を正しく把握し、記録や運営体制に不備がないか、自ら点検しておくことがリスク回避につながります。また、現場任せにせず、経営者・管理者が主体的に制度と向き合う姿勢が、監査対応だけでなく、質の高いサービス提供にもつながるでしょう。
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介護施設における監査では、記録の正確性や保管体制、加算要件の適正な算定、職員体制など、多岐にわたる項目が確認されます。このとき、記録の不備や書類の管理ミスが原因で指摘や是正措置につながるケースも少なくありません。
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