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介護の基礎知識

障がい福祉サービスの実地指導(運営指導)の対策とは?

  • 公開日:2025年01月07日
  • 更新日:2025年12月09日

実地指導は行政の担当者が事業所を訪れ、適正な障がい福祉サービスが運営されているかを調査するものです。突然実地指導のお知らせが届くと驚かれる事業所様も多いのではないでしょうか。

法律や指定基準に違反が見つかれば、監査に発展し、行政処分や報酬の返還を求められる可能性があります。しかし、実地指導は全ての事業所に平等に実施されるものであり、不正を暴くことが目的ではありません。むしろ、事業所運営の見直しや改善の機会と捉え、前向きに対応することが大切です。

本記事では、実地指導とは何かや、監査との違い、障がい福祉サービスにて必要な対策や書類について解説します。実地指導対策を通して、適切な事業所運営を目指しましょう。

実地指導とは

実地指導とは、都道府県の担当者が障がい福祉サービス事業所を訪問し、適切な事業所運営が行われているかを確認する手続きです。行政が行う指導には大きく分けて「集団指導」と「実地指導」の二種類があります。

集団指導は、都道府県又は市町村が主催し、複数の障がい福祉事業所を一箇所に集めて開催する形式です。一方、実地指導は、個々の障がい福祉サービス事業所を対象に直接行われることが特徴です。

実地指導の頻度については、、就労継続支援A型、就労継続支援B型及び共同生活援助を行う事業所については、3年に1回以上の頻度で実施されます。その他のサービスについては、原則として指定の有効期間内に少なくとも1回以上行われます。指定後まもない障害福祉サービス事業者等については、指定後3年以内に行われます。ただし、就労継続支援A型は、従来どおり新規指定の半年後を目途に初回の運営指導を行います。

障がい福祉の実地指導の目的

障がい福祉の実地指導の最大の目的は、自立支援給付対象サービス等の質の確保及び自立支援給付の適正化を図ることです。

「良質なケアが提供される体制を維持すること」は、サービス利用者や社会だけでなく、障がい福祉事業所にとっても極めて重要な課題です。つまり、実地指導は「行政との対立」ではなく、行政と協力しながら、サービスの健全な運営を継続していくための重要な取り組みといえます。

参照:指定障害福祉サービス事業者等の指導監査について

実地指導と監査の違い

行政から通知が来たとき、それが実地指導なのか、監査なのか、一見わからないことがあります。以下では、実地指導と監査の違いについて解説します。

事前通知のあり・なし

監査は通常、事前通知が行われないことがほとんどです。しかし、仮に事前通知がある場合には、実地指導とは異なる根拠条文が明確に記載されています

一方で、実地指導であっても、まれに事前通知が行われないケースがあります。
事前通知がなく行政の担当者が事業所を訪問した際には、実地指導と監査の用語を正確に使い分けていない場合があるため、必ず根拠条文を確認するようにしてください。

実施の目的

実地指導は、事業所が指定基準を遵守し、適切な障がい福祉サービスを提供するとともに、正確な報酬の請求を行うことを目的として実施されます。そのため、原則としてすべての事業所を対象にランダムで行われます

一方、監査は、収集した情報から人員基準や設備基準、運営基準などの指定基準違反や不正請求が確認された場合、またはその疑いがある場合に実施されます
また、監査は運営基準等の指定基準違反や不正請求の疑いに基づいて行われることから、調査内容もそれに応じて具体的かつ厳しい場合が多いです。

障がい福祉サービスの実地指導でチェックされる項目と書類

障がい福祉サービスの実地指導では調査項目ごとに用意すべき書類が異なります。以下では障がい福祉サービスにて一般的によく確認される書類を項目ごとにご紹介します。

主要項目 確認文書
基本方針 ・運営規程
・個別支援計画
・ケース記録
・研修計画、研修
・実施記録
・虐待防止関係書類
・体制の整備をしていることが分かる書類
人員に関する基準 ・勤務実績表
・出勤簿(タイムカード)
・勤務体制一覧表
・従業者の資格証
・サービス提供責任者の勤務形態が分かる書類
・管理者の勤務形態が分かる書類
設備に関する基準 ・適宜必要と認める資料
内容及び手続の説明及び同意 ・重要事項説明書
・利用契約書
・その他利用者に交付した書面
契約支給量の報告等 ・受給者証の写し
・契約内容報告書
提供拒否の禁止 ・適宜必要と認める資料
連絡調整に対する協力 ・適宜必要と認める資料
サービス提供困難時の対応 ・適宜必要と認める資料
受給資格の確認 ・受給者証の写し
介護給付費の支給の申請に係る援助 ・適宜必要と認める資料
心身の状況等の把握 ・アセスメント記録
・ケース記録
指定障害福祉サービス事業者等との連携等 ・個別支援計画
・ケース記録
身分を証する書類の携行 ・適宜必要と認める資料
サービスの提供の記録 ・サービス提供の記録
指定居宅介護事業者が支給決定障害者等に求めることのできる金銭の支払の範囲等 ・適宜必要と認める資料
利用者負担額等の受領 ・請求書
・領収書
・重要事項説明書
利用者負担額に係る管理 ・適宜必要と認める資料
介護給付費の額に係る通知等 ・通知の写し
・サービス提供証明書の写し
指定居宅介護の基本取扱方針 ・適宜必要と認める資料
指定居宅介護の具体的取扱方針 ・適宜必要と認める資料
居宅介護計画の作成 ・居宅介護計画
・アセスメント及びモニタリングを実施したことが分かる書類
・居宅介護計画及び交付した記録
同居家族に対するサービス提供の禁止 ・適宜必要と認める資料
緊急時等の対応 ・緊急時対応マニュアル
・ケース記録
・事故等の対応記録
支給決定障害者等に関する市町村への通知 ・適宜必要と認める資料
管理者及びサービス提供責任者の責務 ・適宜必要と認める資料 ・利用申込み時の記録
・サービス提供内容を管理していることが分かる書類(運営規等)
運営規程 ・運営規定
介護等の総合的な提供 ・適宜必要と認める資料
勤務体制の確保等 ・従業者の勤務表
・勤務形態一覧表または雇用形態が分かる書類
・研修計画、研修実施記録
・就業環境が害されることを防止するための方針が分かる書類
業務継続計画の策定等 ・業務継続計画
・研修及び訓練を実施したことが分かる書類
・業務継続計画の見直しを行ったことが分かる書類
衛生管理等 ・衛生管理に関する書類
・委員会議事録
・感染症の予防及びまん延の防止のための指針
・研修及び訓練を実施したことが分かる書類
掲示 ・事業所の掲示物又は備え付け閲覧物
身体拘束等の禁止 ・個別支援計画
・身体拘束等に関する書類(必要事項が記載されている記録、理由が分かる書類等)
・委員会議事録
・身体拘束等の適正化のための指針
・研修を実施したことが分かる書類
秘密保持等 ・従業者及び管理者の秘密保持誓約書 ・その他必要な措置を講じたことが分かる書類(就業規則等) ・個人情報同意書
情報の提供等 ・情報提供を行ったことが分かる書類(パンフレット等)
・事業者のHP画面・パンフレット
利益供与等の禁止 ・適宜必要と認める資料
苦情解決 ・苦情受付簿
・重要事項説明書
・契約書
・事業所の掲示物
・苦情者への対応記録
・苦情対応マニュアル
・市町村からの指導または助言を受けた場合の改善したことが分かる書類
・都道府県(又は指定都市)からの指導または助言を受けた場合の改善したことが分かる書類
・都道府県等への報告書
・運営適正化委員会の調査又はあっせんに協力したことが分かる書類
事故発生時の対応 ・事故対応マニュアル 都道府県、市町村、家族等への報告記録
・事故の対応記録
・ヒヤリハットの記録
・再発防止の検討記録
・損害賠償を速やかに行ったことが分かる書類(賠償責任保険書類等)
虐待の防止 ・委員会議事録研修を実施したことが分かる書類
・担当者を配置していることが分かる書類
会計の区分 ・収支予算書・決算書等の会計書類
記録の整備 ・職員名簿
・設備・備品台帳
・帳簿等の会計書類
・各種記録簿冊
電磁的記録等 ・電磁的記録簿冊
・適宜必要と認める資料

上記以外にも提供するサービスごとに用意すべき書類が異なります。詳しいサービスごとの書類は以下よりご確認ください。

指定障害福祉サービス事業者等の指導監査について

必要書類がない場合

事前提出書類の準備中に不備が発覚した場合、最も避けるべき行為は書類の「偽造」です

例えば、障がい福祉サービスでは、利用者のケース記録やモニタリング記録を適切に作成・保管することが求められています。もし特定の月の記録が抜けている場合でも、実際にサービス提供やモニタリングを行い、メモや記録が残っているのであれば、後からケース記録を作成すること自体は問題ありません。
しかし、実際にはサービス提供やモニタリングを行っていないにもかかわらず、あたかも実施したかのようなケース記録を作成する行為は、明確な「偽造」に該当します。

監査において、障がい福祉事業所が報告や帳簿書類の提出・提示命令に従わず、または虚偽の報告をした場合、これ自体が指定の効力停止や指定取消処分の理由となります。さらに、実地指導中に偽造が発覚した場合、具体的な不正の疑いが明らかになれば監査に切り替えられ、厳しい行政処分を受ける可能性が高まります。

一方で、書類に不備があった場合でも、真摯に反省し、改善に向けた姿勢や取り組みを示せば、指定の効力停止や指定取消といった重い行政処分に至ることはまれです。実地指導前の事前確認で不備を発見した場合には、指摘される前に改善策を示すことを検討しましょう。

障がい福祉サービスの実地指導のチェックリスト・自己点検票とは?

自己点検票とは、法律で定められた基準(人員基準・設備基準・運営基準)や報酬の算定が適切に行われているかを、事業所が自ら確認するためのチェックリストです。自己点検を行うことで、実地指導のよくある指摘事項を把握し、対策することができます。実地指導(運営指導)を受ける事業所は、指導の実施前に自己点検票を活用して事前チェックを行うことが求められます。指定権者のホームページから自己点検票をダウンロードし、内容を確認しましょう。

以下では例として、神戸市が公開している障害福祉の自己点検票のURLを記載します。運営指導を受ける際は自事業所のある市区町村の自己点検票から自事業所の提供する障がい福祉サービスの自己点検票を確認し、実地指導の事前チェックを行いましょう。

参考: 神戸市:自己点検シート(障害福祉)

障がい福祉の実地指導のポイント

障がい福祉の実地指導(運営指導)において指摘や指導を受けないために、以下の対策ポイントを押さえておきましょう。

1.算定要件の理解と確認
基本報酬や加算の算定要件を正しく理解し、要件を満たした上で適切に算定されているか確認します。

2.報酬と実績の一致確認
請求した報酬と実際のサービス提供実績に差異がないかを定期的にチェックします。

3.書類の定期的な確認
書類に不備がないか、日頃から定期的に確認を行います。

4.記録の適切な保管
研修の実施状況や利用者から寄せられた苦情の内容を記録し、必要に応じて確認できるようにしておきます。

5.整理整頓と清潔な環境維持
事務所内を常に整理整頓し、清潔な状態を保つよう努めます。

これらのポイントを実践することで、実地指導時の指摘や指導を未然に防ぐことができます。

実施指導に関するQ&A

Q.当日は何人の職員が来るの?

A.当日に来所する職員の人数や氏名、担当部署については、事前に送付される通知書に記載されています。部署ごとに調査に来る場合もあるため、職員数が多くても過度に身構える必要はありません。

Q.質問には全て答えなければならないの?

A.実地指導は事前に日時が通知されるため、当日はシフト調整を行い、事業所の運営状況やサービス提供に詳しい職員(運営担当者、人員担当者、利用者担当者など)を可能な限り出勤してもらう必要があります。
その場で的確に回答することで、事業所が適切に運営されていることを印象付け、信頼度の向上や追加調査の軽減につながります。

ただし、質問内容によっては、必ずしもその場で全て回答する必要はありません。
例えば、「正確な回答のため、関連書類を確認した後で改めてお答えします」のように回答することも可能です。ですが、質問に対して多く「分かりません」と答えると、事業所に対する不信感を招く恐れがあるため注意が必要です。

Q.実地指導にかかる時間はどのくらい?

A.実地指導の所要時間は、事前に送付される通知書に具体的な時間が記載されていますが、基本的には丸一日がかりと考えておくべきです。そのため、対応する職員については、シフトを調整し、可能な限り時間を確保できるようにしておいてください。

まとめ

障がい福祉サービスの実地指導とは、都道府県の担当者が障がい福祉サービス事業所を訪問し、適切な事業所運営が行われているかを確認する手続きです。実地指導を行うことで自立支援給付対象サービス等の質の確保及び自立支援給付の適正化を図ります。

実地指導での調査の内容の主たる部分は、事前に準備を求められる書類関係のチェックです。実地指導のお知らせが届いてから慌てないためにも日々の書類管理を徹底することが非常に重要です。

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