介護の基礎知識
居宅療養管理指導の実地指導(運営指導)の対策とは?

実地指導は行政の担当者が事業所を訪れ、適正な介護保険サービスが運営されているかを調査するものです。突然実地指導のお知らせが届くと驚かれる事業所様も多いのではないでしょうか。
介護保険法や指定基準に違反が見つかれば、監査に発展し、行政処分や介護報酬の返還を求められる可能性があります。しかし、実地指導は全ての事業所に平等に実施されるものであり、不正を暴くことが目的ではありません。むしろ、事業所運営の見直しや改善の機会と捉え、前向きに対応することが大切です。
本記事では、実地指導とは何かや、監査との違い、居宅療養管理指導にて必要な対策や書類について解説します。実地指導対策を通して、適切な事業所運営を目指しましょう。
実地指導とは
実地指導とは、介護保険法の目的を達成するために、都道府県などの担当者が介護サービス事業所を訪問し、適切な事業所運営が行われているかを確認する手続きです。行政が行う指導には大きく分けて「集団指導」と「実地指導」の二種類があります。
集団指導は、指定申請先となる管轄行政が主催し、複数の介護事業所を一箇所に集めて開催する形式です。一方、実地指導は、個々の介護サービス事業所を対象に直接行われることが特徴です。
実地指導の頻度については、事業所の指定有効期間内に少なくとも1回は実施されることを基本としており、全ての事業所において定期的に実施されるものとされています。
実地指導の目的
実地指導の最大の目的は、高齢者の尊厳を守り、良質なケアが提供される体制を維持・向上させること、さらに高齢者虐待を防止することで、介護保険制度への信頼を保ち、その持続可能性を確保することです。
「良質なケアが提供される体制を維持すること」は、サービス利用者や社会だけでなく、介護事業所にとっても極めて重要な課題です。つまり、実地指導は「行政との対立」ではなく、行政と協力しながら、介護保険制度やサービスの健全な運営を継続していくための重要な取り組みといえます。
実地指導の内容
実地指導の主な内容は、介護サービスの実施状況指導・最低基準等運営体制指導・報酬請求指導の3つです。
介護サービスの実施状況指導
介護サービスの実施状況指導は、ケアマネジメント・プロセスに基づくサービス実施がされているか、高齢者虐待や適切な手続きを経ていない身体拘束が行われていないか確認されます。虐待や身体拘束に関わる行為やそれらがもたらす影響についての理解を深め、防止に向けた取り組みの促進を行います。
最低基準等運営体制指導
最低基準等運営体制指導では、個別の介護サービスの質を確保するための体制に関する事項について確認されます。
報酬請求指導
報酬請求指導は、以下の点を確認し、適切な運営と請求を促すことを目的としています。
- 報酬基準に基づく実施体制の確保
- 一連のケアマネジメントプロセスに沿ったサービス提供
- 多職種との連携によるサービス実施
上記の基本的な考え方や算定条件に基づいた運営・請求が行われているか、ヒアリングを通じて確認し、指導を行います。この指導は、不適正な請求を防止するとともに、サービスの質を向上させることを目指しています。
実地指導は以下の「介護保険施設等運営指導マニュアル」に基づいて実施されます。
参照:介護保険施設等 運営指導マニュアル実地指導と監査の違い

行政から通知が来たとき、それが実地指導なのか、監査なのか、一見わからないことがあります。以下では、実地指導と監査の違いについて解説します。
事前通知のあり・なし
監査は通常、事前通知が行われないことがほとんどです。しかし、仮に事前通知がある場合には、実地指導とは異なる根拠条文が明確に記載されています。
一方で、実地指導であっても、まれに事前通知が行われないケースがあります。
事前通知がなく行政の担当者が事業所を訪問した際には、実地指導と監査の用語を正確に使い分けていない場合があるため、必ず根拠条文を確認するようにしてください。
実施の目的
実地指導は、事業所が指定基準を遵守し、適切な介護サービスを提供するとともに、正確な介護報酬の請求を行うことを目的として実施されます。そのため、原則としてすべての事業所を対象にランダムで行われます。
一方、監査は、収集した情報から人員基準や設備基準、運営基準などの指定基準違反や不正請求が確認された場合、またはその疑いがある場合に実施されます。
また、監査は運営基準等の指定基準違反や不正請求の疑いに基づいて行われることから、調査内容もそれに応じて具体的かつ厳しい場合が多いです。
居宅療養管理指導の実地指導のチェック項目

実地指導で確認される事項は多岐にわたり、提供するサービスごとに特徴があります。
以下では居宅療養管理指導にて特に確認される項目をご紹介します。
個別サービスの質に関する事項
- 使用目的に沿って使われているか【目視】
- 利用申込者又はその家族へ説明を行い、同意を得ているか
- 重要事項説明書の内容に不備等はないか
- サービス担当者会議等に参加し、利用者の心身の状況把握に努めているか
- サービス担当者会議等を通じて介護支援専門員や他サービスとの密接な連携に努めているか
- 居宅サービス計画に沿ったサービスが提供されているか
- 居宅サービス計画等にサービス提供日及び内容、介護保険法第41条第6項の規定により利用者に代わって支払いを受ける費用の額等が記載されているか
- サービス提供記録に提供した具体的サービス内容等が記録されているか
- 生命又は身体を保護するため、緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等(身体拘束その他利用者の行動を制限する行為を含む)を行っていないか
- 身体的拘束等を行う場合に要件(切迫性、非代替性、一時性)を全て満たしているか
- 身体的拘束等を行う場合、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しているか
- 利用者の心身の状況、希望、その置かれている環境等を踏まえているか
- 利用者又はその家族への説明・同意・交付は行われているか
- 利用者について、計画に従ったサービスの実施状況及び目標の達成状況の記録を行っているか
個別サービスの質を確保するための体制に関する事項
- 従業者の員数は適切であるか
- 必要な資格は有しているか
- 被保険者資格、要介護認定の有無、要介護認定の有効期限を確認しているか
- 利用者からの費用徴収は適切に行われているか
- 領収書を発行しているか
- 運営における以下の重要事項について定めているか
1.事業の目的及び運営の方針
2.従業者の職種、員数及び職務の内容
3.営業日及び営業時間
4.指定居宅療養管理指導の種類及び利用料その他の費用の額
5.通常の事業の実施地域
6.虐待の防止のための措置に関する事項
7.その他運営に関する重要事項 - サービス提供は事業所の従業者によって行われているか
- 資質向上のために研修の機会を確保しているか
- 性的言動、優越的な関係を背景とした言動による就業環境が害されることの防止に向けた方針の明確化等の措置を講じているか
- 感染症、非常災害発生時のサービスの継続実施及び早期の業務再開の計画(業務継続計画)の策定及び必要な措置を講じているか
- 従業者に対する計画の周知、研修及び訓練を定期的に実施しているか
- 定期的に計画の見直しを行い必要に応じて計画の変更を行っているか
- 感染症の発生又はまん延しないよう次の措置を講じているか
- 感染症の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会開催(おおむね6月に1回以上)、その結果の周知
- 感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備
- 感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練の定期実施
- 個人情報の利用に当たり、利用者(利用者の情報)及び家族(利用者家族の情報)から同意を得ているか
- 退職者を含む、従業者が利用者の秘密を保持することを誓約しているか
- 苦情受付の窓口を設置するなど、必要な措置を講じているか
- 苦情を受け付けた場合、内容等を記録、保管しているか
- 市町村、利用者家族、居宅介護支援事業者等に連絡しているか
- 事故状況、事故に際して採った処置が記録されているか
- 損害賠償すべき事故が発生した場合に、速やかに賠償を行っているか
- 虐待の発生又はその再発を防止するため次の措置を講じているか
・ 虐待の防止のための対策を検討する委員会の定期開催及びその結果の居宅療養管理指導従業者への周知
・ 虐待の防止のための指針の整備
・ 虐待の防止のための研修の定期実施 - 上記の措置を適切に実施するための担当者を置いているか
居宅療養管理指導の実地指導で確認される標準確認文書

居宅療養管理指導の実地指導で確認される書類は以下の通りです。
- 重要事項説明書(利用申込者又は家族の同意があったことがわかるもの)
- 利用契約書
- サービス担当者会議の記録
- 居宅サービス計画
- サービス提供記録
- 身体的拘束等の記録(身体的拘束等がある場合)
- 従業者の勤務体制及び勤務実績がわかるもの(例:勤務体制一覧表、勤務実績表)
- 従業者の勤怠状況がわかるもの(例:タイムカード、勤怠管理システム)
- 資格要件に合致していることがわかるもの(例:資格証の写し)
- 介護保険番号、有効期限等を確認している記録等
- 請求書
- 領収書
- 運営規程
- 従業者の勤務体制及び勤務実績がわかるもの(例:勤務体制一覧表、勤務実績表)
- 雇用の形態(常勤・非常勤)がわかるもの
- 研修の計画及び実績がわかるもの
- 職場におけるハラスメントによる就業環境悪化防止のための方針
- 業務継続計画
- 研修の計画及び実績がわかるもの
- 訓練の計画及び実績がわかるもの
- 感染症の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会の開催状況・結果がわかるもの
- 感染症の予防及びまん延の防止のための指針
- 感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練の実施状況・結果がわかるもの
- 個人情報の利用に関する同意書
- 従業者の秘密保持誓約書
- 苦情の受付簿
- 苦情への対応記録
- 市町村、利用者家族、居宅介護支援事業者等への連絡状況がわかるもの
- 事故に際して採った処置の記録
- 損害賠償の実施状況がわかるもの
- 虐待の防止のための対策を検討する委員会の開催状況及び結果がわかるもの
- 虐待の防止のための指針
- 虐待の防止のための研修の計画及び実績がわかるもの
- 担当者を置いていることがわかるもの
これらの資料は、サービスの質や適切なサービス提供のために必要な帳票類が整備されているかを確認するためのものです。サービス種別によって必要な資料は異なるため、年に一度以上の自己点検を行い、帳票の整備状況を確認することが重要です。
各サービス種別で求められる書類については、厚生労働省が提供している「確認項目及び確認文書」の資料を参照してください。
参考:厚生労働省 確認項目及び確認文書必要書類がない場合
事前提出書類の準備中に不備が発覚した場合、最も避けるべき行為は書類の「偽造」です。
例えば、居宅療養管理指導では、利用者のサービス提供記録やモニタリング記録を適切に作成・保管することが求められています。もし特定の月の記録が抜けている場合でも、実際にサービス提供やモニタリングを行い、メモや記録が残っているのであれば、後から記録を作成すること自体は問題ありません。
しかし、実際にはサービス提供やモニタリングを行っていないにもかかわらず、あたかも実施したかのような記録を作成する行為は、明確な「偽造」に該当します。
監査において、介護事業所が報告や帳簿書類の提出・提示命令に従わず、または虚偽の報告をした場合、これ自体が指定の効力停止や指定取消処分の理由となります。さらに、実地指導中に偽造が発覚した場合、具体的な不正の疑いが明らかになれば監査に切り替えられ、厳しい行政処分を受ける可能性が高まります。
一方で、書類に不備があった場合でも、真摯に反省し、改善に向けた姿勢や取り組みを示せば、指定の効力停止や指定取消といった重い行政処分に至ることはまれです。実地指導前の事前確認で不備を発見した場合には、指摘される前に改善策を示すことを検討しましょう。
居宅療養管理指導の実地指導のチェックリスト・自己点検票とは?

自己点検票とは、介護保険法で定められた基準(人員基準・設備基準・運営基準)や介護報酬の算定が適切に行われているかを、事業所が自ら確認するためのチェックリストです。実地指導(運営指導)を受ける事業所は、指導の実施前に自己点検票を活用して事前チェックを行うことが求められます。そのため、指定権者のホームページから自己点検票をダウンロードし、内容を確認しましょう。
ここでは一例として、足立区が公開している居宅療養管理指導の自己点検票を基に、その一部の内容をご紹介します。
人員基準
- 従業員の員数
- 従業者は、事業所の区分に応じて次に定める者が配置されていますか。
(1)病院又は診療所である指定居宅療養管理指導事業所
①医師又は歯科医師 1以上
②薬剤師、看護職員、歯科衛生士又は管理栄養士
その提供する指定居宅療養管理指導の内容に応じた適当数
(2)薬局である指定居宅療養管理指導事業所
1以上の薬剤師
- 従業者は、事業所の区分に応じて次に定める者が配置されていますか。
設備基準
- 設備及び備品等
- 事業所は、病院、診療所、薬局、又は指定訪問看護ステーション等であって、事業の運営に必要な広さを有していますか。
また、指定居宅療養管理指導の提供に必要な設備及び備品等を備えていますか。
(病院又は診療所における診療用に備え付けられたものを使用することも可)
- 事業所は、病院、診療所、薬局、又は指定訪問看護ステーション等であって、事業の運営に必要な広さを有していますか。
運営基準(一部抜粋)
- 内容及び手続きの説明及び同意
- 利用者のサービス選択に資すると認められる重要事項(※)について記した文書を交付し、利用申込者又はその家族に対し説明を行い、利用申込者の同意を得ていますか。※運営規程の概要、勤務体制、事故発生時の対応、苦情処理の体制等
- 提供拒否の禁止
- 正当な理由なくサービスの提供を拒んだことはありませんか。
- サービス提供困難時の対応
- 自ら適切なサービス提供が困難な場合、当該利用申込者に係る居宅介護支援事業者への連絡、適当な他事業者等の紹介など必要な措置を速やかに取っていますか。
- 受給資格等の確認
- 被保険者証等の確認を行っていますか。被保険者証に認定審査会意見が記載されている場合には配慮して介護サービスを提供していますか。
- 要介護認定の申請に係る援助
- 利用申込者が要介護認定を受けていない場合、既に要介護認定の申請をしているか確認していますか。
- 利用者が要介護認定を申請していない場合、利用者の意思を踏まえて速やかに申請が行われるよう必要な援助を行っていますか。
- 心身の状況等の把握
- 利用者に係る居宅介護支援事業者が開催するサービス担当者会議等を通じて、利用者の心身の状況、病歴、服薬歴、その置かれている環境、他の保健医療サービス又は福祉サービスの利用状況等の把握に努めていますか。
- 居宅介護支援事業者等との連携
- 指定居宅療養管理指導を提供する場合は、居宅介護支援事業者その他保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者と密接な連携に努めていますか。
- 指定居宅療養管理指導の提供の終了に際しては、利用者又はその家族に対して適切な指導を行うとともに、主治の医師及び居宅介護支援事業者に対する情報の提供並びに保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との密接な連携に努めていますか。
実地指導のポイント

実地指導(運営指導)において指摘や指導を受けないために、以下の対策ポイントを押さえておきましょう。
1.算定要件の理解と確認
基本報酬や加算の算定要件を正しく理解し、要件を満たした上で適切に算定されているか確認します。
2.介護報酬と実績の一致確認
請求した介護報酬と実際のサービス提供実績に差異がないかを定期的にチェックします。
3.書類の定期的な確認
書類に不備がないか、日頃から定期的に確認を行います。
4.記録の適切な保管
研修の実施状況や利用者から寄せられた苦情の内容を記録し、必要に応じて確認できるようにしておきます。
5.整理整頓と清潔な環境維持
事務所内を常に整理整頓し、清潔な状態を保つよう努めます。
これらのポイントを実践することで、実地指導時の指摘や指導を未然に防ぐことができます。
実施指導に関するQ&A
Q.当日は何人の職員が来るの?
A.当日に来所する職員の人数や氏名、担当部署については、事前に送付される通知書に記載されています。部署ごとに調査に来る場合もあるため、職員数が多くても過度に身構える必要はありません。
Q.質問には全て答えなければならないの?
A.実地指導は事前に日時が通知されるため、当日はシフト調整を行い、事業所の運営状況やサービス提供に詳しい職員(運営担当者、人員担当者、利用者担当者など)を可能な限り出勤してもらう必要があります。
その場で的確に回答することで、事業所が適切に運営されていることを印象付け、信頼度の向上や追加調査の軽減につながります。
ただし、質問内容によっては、必ずしもその場で全て回答する必要はありません。
例えば、「正確な回答のため、関連書類を確認した後で改めてお答えします」のように回答することも可能です。ですが、質問に対して多く「分かりません」と答えると、事業所に対する不信感を招く恐れがあるため注意が必要です。
Q.実地指導にかかる時間はどのくらい?
A.実地指導の所要時間は、事前に送付される通知書に具体的な時間が記載されていますが、基本的には丸一日がかりと考えておくべきです。そのため、対応する職員については、シフトを調整し、可能な限り時間を確保できるようにしておいてください。
まとめ
居宅療養管理指導の実地指導とは、介護保険法の目的を達成するために、都道府県などの担当者が居宅療養管理指導事業所を訪問し、適切な事業所運営が行われているかを確認する手続きです。実地指導の最大の目的は、高齢者の尊厳を守り、良質なケアが提供される体制を維持・向上させること、さらに高齢者虐待を防止することで、介護保険制度への信頼を保ち、その持続可能性を確保することです。
実地指導での調査の内容の主たる部分は、事前に準備を求められる書類関係のチェックです。実地指導のお知らせが届いてから慌てないためにも日々の書類管理を徹底することが非常に重要です。
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実地指導の際に慌てないためにも、日頃から書類の整理を行っておくことは非常に重要です。その際、書類管理を紙で行っていると、以下のようなお悩みがある事業所様も多いのではないでしょうか?
- 紙での介護記録の保管は保管場所の確保が難しい
- カンファレンスや実地指導の際に過去の情報をすぐに取り出せない
- セキュリティ面で不安がある
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