介護の基礎知識
「要介護認定」の基本設計
要介護認定の基本設計
要介護認定は、一次判定ソフトによる判定から、介護認定審査会における認定まで、原則として、要介護認定等基準時間と呼ばれる介護の手間の判断によって審査が行われます。この審査の考え方は、制度が実施されてから、今日まで変わっていません。
最初の段階となる一次判定では、認定調査における基本調査74 項目の結果から、要介護認定等基準時間や中間評価項目の得点を算出し、さらに当該申請者における要介護度の結果が示されます。
この申請者の状態を把握するための調査項目を「能力」、「介助の方法」、「障害や現象(行動)の有無」といった3つの評価軸を設けています。全ての調査項目には、このうちいずれかの評価軸にそった選択基準が設けられています。また、この選択の基準については、観察・聞き取りに基づく客観的なものであることが改めて明示されています。
前述した基本調査において、把握した申請者の「能力」、「介助の方法」、「障害や現象(行動)の有無」を調査した結果と、これらを総合化した指標である5つの中間評価項目得点を併せて「状態像」と呼んでいます。この基本調査のデータからだけでも、例えば、歩行はできるが、ついさっき食事をしたことは忘れてしまう高齢者であるという状態像も明らかにすることができます。前述したように、要介護認定の評価軸は、介護の手間の総量であることから、こういった状態像から、認定をすることはできません。
したがって、一次判定ソフトにおいては、申請者の「能力」に関わる情報や、「介助の方法」および「障害や現象(行動)の有無」といった状態に関わる調査結果情報を入力することで、「行為区分毎の時間」とその合計値(すなわち、要介護認定等基準時間)が算出される設計となっています。
つまり、要介護認定では、申請者の状態像を数量化し、この値とタイムスタディデータとの関連性を分析することで、「介護の手間」の総量である要介護認定等基準時間を推計しています。この推計時間を利用することで、要介護度を決定するという方式が採用されています。
このことは、介護認定審査会においては、状態像についての議論ではなく、特別な介護の手間の発生の有無や要介護認定等基準時間の妥当性といった観点を持って議論することが望まれていることになります。
現状では、こういった介護の手間の総量を複数の介護に関わる専門職の合議によって、同一の結論を得ることは、きわめて困難であるため、要介護認定においては、申請者の「状態像」に関わる情報については、基本調査で把握し、これを介護の手間の総量=要介護認定等基準時間に置き換える作業は、コンピューターによる判定が代行していると説明できます。
要介護認定において二次判定による変更が認められる理由
一次判定は、統計的な手法を用い、申請者の状態に関する情報を用いて、同様の特徴を持った高齢者グループに提供された介護の手間から、申請者の介護量を推定し、さらに、これを要介護認定等基準時間に変換するという構造となっています。このため、統計的な推定になじまない、申請者固有の手間が特記事項や主治医意見書の記載内容から具体的に認められる場合は、必ずしも一次判定の結果に縛られずに要介護度の変更を認めることができるとされているのが、二次判定(介護の手間にかかる審査判定)です。
したがって、一次判定を変更するにあたっては、統計的、数量的なデータそのものの適正さ等を判断するのではなく、変更の理由が、当該申請者に固有の情報に基づいているかを吟味しなければなりません。このことから、一次判定の変更には、特記事項または主治医意見書に記載されている介護の手間を根拠とすることが必須の条件といえます。
介護認定審査会では、介護において特別な手間が発生しているかどうかを議論する場合、例えば、「ひどい物忘れによって、認知症のさまざまな周辺症状がある」という行動があるという情報だけでは行いません。こういう情報に加えて、「認知症によって、排泄行為を適切に理解することができないため、家族が常に、排泄時に付き添い、あらゆる介助を行わなければならない」といった具体的な対応としての「手間」の記述があり、その多少が示されてはじめて、特別な手間かどうかを判断する根拠が与えられるということが理解される必要があります。
適正な審査判定には、介護の手間の増加や減少の根拠となる特記事項や主治医意見書の記述が介護認定審査会資料として記載され、残されていることが必要であり、また介護認定審査会委員は、二次判定に際して、介護の手間が根拠となったことを明示することが必須となります。
樹形モデルによる要介護認定等基準時間の推計を行う方法の妥当性
現行の要介護認定ロジック、すなわち樹形モデルを用いた要介護認定等基準時間による判定基準が開発される以前には、高齢者の状態を日常生活動作毎に評価し、これらの調査項目の結果毎に、点数を加算する方法が一般的でした。これは、この点数の多寡と介護の手間として考えられる時間との間に比例的な関係を持っているということが前提とされた考え方によっています。この方法では、申請者の心身や精神的な状況のそれぞれの調査結果の間の関連性は配慮されていません。
しかし、実際には、各調査項目の結果は、複雑な関連性をもっており、高齢者の状態がいわば、順序をもって悪化し、さらに、この悪化に応じたサービス量の増加がなされるといった単純な法則に従うとは言えません。
例えば、「全く起き上がることも立つこともできない」高齢者に「尿意がある」ことと、「かろうじて立つことができる」高齢者に「尿意がある」ことは、介護サービスの内容や量に大きな違いを生じさせると考えられるが、点数としては、前者が低く、介助量は、後者の高齢者よりも多くなると予測されますが、実際に提供された介助時間は、必ずしも予測どおりにはならないこともわかってきました。
そこで、高齢者の複雑な状態像をできるだけ、調査項目間の関係性として示し、これらの状態像を複雑なまま、判定結果に反映させることができる方法論として、現行の要介護認定に用いられている樹形モデルが選択されました。言い換えれば、ある調査項目の判定結果と、他の結果との関係性を具体的に示し、介護サービスの内容や量をある程度、予測し、表現できるものとして、樹形モデルを選択したといえます。これは、より介護現場の実態を現す方法として採用したともいえるでしょう。
また、この樹形モデルの作成にあたっては、医療や福祉等の専門的な観点からではなく、実態データを忠実に分析しました。それを具現的にみせることを意図して採用されたのが、樹形モデルだともいえます。
- 介護ソフト「トリケアトプス」では…
- 調査項目を入力し、一次判定シミュレーションするための[判定]ボタンをクリック後、「樹形図を表示」より樹形図を表示できます。
介護現場における「1分間タイムスタディ」データと中間評価項目の開発
介護保険制度発足時の要介護認定の基礎データとなっているのは、制度発足前に実施された、介護施設に入所・入院している約3,400名の高齢者に提供されている介助内容とその時間のデータです。
このデータの収集にあたっては、「1分間タイムスタディ」法が採用されました。
平成10年度の要介護認定に関する試行的事業では、樹形モデルは使用されたが、中間評価項目(心身状態7指標)は使用されていなかった。この結果、試行的事業では、概ね要介護度は、臨床的な判断と一致したが、中には、大きく異なる事例が現れるということが問題となりました。
この理由は、3,400サンプルのデータだけで、多様な状態像を持つ高齢者の介護の手間を判定することが困難であったことを示していました。「1 分間タイムスタディ」の調査結果は、詳細な調査データであればあるほど、特定の人間のばらつきの影響を受けることが予想されました。このため、推計結果がある特定の高齢者の状態像を反映しすぎるという問題が示されたのでした。
そこで、認定調査によって把握された心身の状況に基づいて、機能や状態を総合的に評価し、要介護高齢者の状態像の典型例を中間評価項目として、樹形モデルに包含することにしました。これが、中間評価項目の得点の利用です。この中間評価項目得点は、高齢者の状態において、一定の特徴や、実際に受けている介助の内容を反映する総合的な指標となっています。この総合的な指標を、「群」と呼び、この群に含まれる複数の調査項目の結果を総合化した指標として得点を示すことにしました。したがって、中間評価項目とは、数項目の認定調査結果を集約し、これを基準化し、得点化したものであります。
中間評価項目の利用によって、ある高齢者の一つの調査項目の結果が、一般的な高齢者の調査結果の傾向と異なる不自然なものとなっていたとしても、他の調査項目の選択傾向に相殺されて、中間評価項目の得点としては、異常な値として反映されにくくなります。このようにして、要介護認定は、より安定した判定がなされることになりました。
さて、中間評価項目は5群となりました。これは、最初に、こういった高齢者の典型例のデータの収集をしてから、約10年後の平成19年において、改めて日本の高齢者の状態像について調査し、収集されたデータを10年前と同様のプロセスを経て解析した結果、従来の7群の中間評価項目は、5群へと変更されることとなりました。
このように、要介護高齢者の心身の状況、介助、認知症などによる周辺症状の有無といったデータの統合的な指標が7から、5へと減りました。介護保険制度が実施される前には、要介護高齢者という介護を要する高齢者集団の特徴の弁別に、7つの指標が必要であったことを示していましたが、介護保険制度が実施され、要介護高齢者という集団が確立され、10年を経たことによって、より少ない5つの指標で、その特徴を弁別することが可能となったということであります。
おそらく要介護高齢者という、集団の特性は、その時代に用いられた介護のあり方やその方法等といった時代背景を反映していることから、調査項目の定期的な見直しと同様に、中間評価項目の分析を今後も継続して実施していく必要があることを示した結果となりました。
出典:認定調査員テキスト2009(改訂版)
- 介護ソフト「トリケアトプス」では…
- 市区町村の認定調査による要介護度の判定(コンピュータによる一次判定)をシミュレーションできます。判定結果を履歴化し、保存することが可能です。
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