介護の基礎知識
【2024年改定対応】訪問介護の特定事業所加算とは?概要や算定要件を解説

訪問介護における特定事業所加算とは、介護福祉士などの専門人材を確保し、質の高いサービスを提供するための体制を整備している事業所を評価するための仕組みです。この加算は、単に体制の整備を評価するだけでなく、重度の利用者を積極的に受け入れる事業所についても適切に評価する区分が設けられている点が特徴です。この記事では、特定事業所加算に関する単位数や算定要件について詳しく解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
注意点:特定事業所加算の適用サービスについて
介護予防・日常生活支援総合事業における訪問型サービスは、加算の対象外となります。また、障害者総合支援法に基づくサービス(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護)が対象となる特定事業所加算もありますが、これらは介護保険法に基づくサービスとは加算区分や要件が異なりますので、混同しないようにご注意ください。
訪問介護の特定事業所加算の単位数
- 特定事業所加算(Ⅰ):所定単位数×20/100
- 特定事業所加算(Ⅱ):所定単位数×10/100
- 特定事業所加算(Ⅲ):所定単位数×10/100
- 特定事業所加算(Ⅳ):所定単位数×3/100
- 特定事業所加算(Ⅴ):所定単位数×3/100
訪問介護の特定事業所加算の算定要件
特定事業所加算の算定要件は以下の通りで、全部で14項目あります。赤字が2024年度介護報酬改定の変更箇所となります。

※「体制要件6」は、重度者など対応要件で「体制要件14」を選択する場合に満たす必要があります。
※加算Vを算定する場合、特別地域加算・中山間地域等における小規模事業所加算・中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算は算定できません
2024年の介護報酬改定での変更ポイント
2024年度の介護報酬改定により、最高区分である加算Ⅰでは、所定単位数の20%が上乗せされます。また、今回の改正で新設された加算ⅣとⅤは最小区分となり、それぞれ3%の加算が適用されます。
特筆すべきは、加算Ⅴの新設です。これは中山間地域等での継続的なサービス提供や、看取り期の利用者を含む重度者へのサービス提供を評価するために導入されました。加算Ⅴの特徴として、他の区分との併用が可能であることが挙げられます。そのため、最大で所定単位数の23%まで加算を受けられる可能性があります。この改定により、地域特性や利用者の状態に応じた評価が可能となり、質の高いサービス提供を行う事業所への適切な評価が期待されます。
体制要件の詳細

1.個別研修計画の作成・実施
登録ヘルパーを含む全ての訪問介護員やサービス提供責任者に対し、それぞれ個別の研修計画を作成し、その計画に基づいて研修を実施するか、実施の予定があることが求められます。
<研修計画に盛り込むこと>
①個別具体的な研修の目標
②研修内容
③研修期間
④実施時期など
2.会議の定期的開催
概ね1ヶ月に1回以上、以下の①または②を目的とする会議を開催することが求められます。この会議はサービス提供責任者が主宰し、すべての訪問介護員が参加する形式で行われます。なお、テレビ電話など、リアルタイムで画面越しにコミュニケーションが可能な機器を利用して実施することも可能です。
<会議の目的>
①利用者に関する情報、もしくはサービス提供にあたっての留意事項の伝達
②訪問介護員等の技術指導
3.サービス提供ごとの指示・報告
サービス提供責任者は、サービス開始前に各訪問介護員へ担当する利用者に関する情報や留意事項を、文書などの確実な方法で伝達する必要があります。また、サービス提供後には各訪問介護員から適宜報告を受け、その内容を記録し、文書として保存することが求められます。
<サービス開始前の伝達事項>
①利用者のADLや意欲
②利用者の主な訴えやサービス提供時の特段の要望
③家族を含む環境
④前回のサービス提供時の状況
⑤その他サービス提供にあたって必要な事項
※④以外は変更があった場合のみ記載するのでも構いません
4.定期健康診断の実施
すべての訪問介護員に対し、少なくとも1年に1回、事業主の費用負担で健康診断を実施する必要があります。新たに加算を算定する場合には、1年以内に健康診断を実施する計画があれば届出が可能です。
<検査項目(労働安全衛生法で定められた項目)>
①既往歴および業務歴の調査
②自覚症状および他覚症状の有無の検査
③身長*、体重、腹囲*、視力および聴力の検査
④胸部エックス線検査* および喀痰検査*
⑤血圧の測定
⑥貧血検査(血色素量及び赤血球数)*
⑦肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)*
⑧血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)*
⑨血糖検査*
⑩尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
⑪心電図検査*
※「*」の項目は医師の判断で省略可能です
5.緊急時の対応方法を明示
事業所における緊急時の対応方法を文書に記載し、利用者に対して説明・交付する必要があります。また、重要事項説明書に必要事項を明記して説明・交付する形でも対応可能です。
<明示すべき項目>
①当該事業所における緊急時などの対応方針
②緊急時の連絡先
③対応可能時間
6.看取り期への対応体制を整備
重度者対応要件で要件14を選択する場合は、以下のすべての条件を満たす必要があります。
<看取り期の対応体制>
①病院や診療所、訪問看護ステーションの看護師との連携により24時間連絡できる体制を確保し、必要に応じて訪問介護をおこなえる体制を整備している
②看取り期における対応方針を定め、利用開始時に利用者またはその家族等に当該方針を説明のうえ、同意を得ている
③看取り期の対応方針について、医師、看護職員、訪問介護員等、ケアマネジャーなど、多職種による協議のうえ、看取りの実績等を踏まえて適宜見直しをおこなう
④看取りに関する職員研修を実施している
7.中山間地域等居住者への継続的なサービス提供
訪問介護事業所の通常のサービス提供エリア内で、中山間地域等に居住する利用者に対して、継続的に訪問介護サービスを提供することが求められます。実績として、前年度(3月を除く)または届出月の前3ヶ月において、1ヶ月あたりの平均で1人以上の利用者にサービスを提供していることが必要です。なお、訪問介護事業所から利用者の居宅までの移動距離が片道7キロメートルを超える場合のみ、この要件の対象となります。
<厚生労働大臣の定める「中山間地域等」の地域>
①離島振興対策実施地域(離島振興法)
②奄美群島(奄美群島振興開発特別措置法)
③豪雪地帯および特別豪雪地帯(豪雪地帯対策特別措置法)
④辺地(辺地に係る公共的施設の総合整備のための財政上の特別措置等に関する法律)
⑤振興山村(山村振興法)
⑥小笠原諸島(小笠原諸島振興開発特別措置法)
⑦半島振興対策実施地域(半島振興法)
⑧特定農山村地域(特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律)
⑨過疎地域(過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法)
⑩沖縄の離島(沖縄振興特別措置法)
※中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算と同様の対象地域
※()内は各地域を規定する法律
8.多職種共同による訪問介護計画の随時見直し
利用者の心身の状態や家族などを取り巻く環境の変化を考慮し、訪問介護員やサービス提供責任者、地域の関係者が協力して訪問介護計画を随時見直すことが求められます。ただし、毎回すべての職種が関わる必要はなく、見直しの内容に応じて適切なメンバーが関与するようにしてください。
人材要件の詳細

9.訪問介護員等の有資格者の割合
訪問介護員等の総数に対する有資格者の割合が、以下の①または②のいずれかの基準を満たしている必要があります。割合の計算は、前年度(3月を除く)の実績平均または届出月の前3ヶ月間の1ヶ月あたりの実績平均に基づき、常勤換算方法で算出してください。なお、生活援助従事者研修修了者については、「0.5」を乗じて算出します。
<有資格者の割合>
①介護福祉士の占める割合が30%以上
②介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者(看護師等含む)の占める割合が50%以上
10. サービス提供責任者の実務経験
すべてのサービス提供責任者が、以下の①または②のいずれかを満たしている必要があります。実務経験とは、サービス提供責任者として働いた期間ではなく、在宅や施設を問わず介護業務に従事した期間を指します。なお、人員配置基準により複数のサービス提供責任者が必要な事業所では、常勤のサービス提供責任者を2名以上配置することが求められます。
<サービス提供責任者の実務経験>
①実務経験3年以上の介護福祉士
②実務経験5年以上の実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者(看護師等含む)
11. 人員基準を超える常勤サービス提供責任者の配置
人員基準により配置されるべき常勤のサービス提供責任者が2人以下の事業所では、①②のどちらも満たす必要があります。
<サービス提供責任者の配置要件>
①人員配置基準で配置が必要なサービス提供責任者を常勤により配置
②人員配置基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置
12. 勤続年数7年以上の訪問介護員等が30%以上
訪問介護員等の全体のうち、勤続年数が7年以上の者が30%以上を占めていることが求められます。この割合の計算方法は要件「6」と同様です。勤続年数の算定においては、当該事業所での勤務年数だけでなく、同一法人が運営する他の施設や事業所での勤務年数も含めることが可能です。
重度者等対応要件の詳細

13.重度利用者(要介護4以上等)の割合が20%以上
利用者総数のうち、①②③の利用者の割合が4以上等の重度利用者の割合が20%以上であることが求められます。この割合は、前年度(3月を除く)の実績平均、または届出月の前3ヶ月間の1ヶ月あたりの実績平均を基に、利用者の実員数または利用回数を用いて計算しています。
<対象となる重度等利用者>
①要介護4・5の利用者
②介護を必要とする認知症(日常生活自立度のランクⅢ・Ⅳ・M)の利用者
③たんの吸引など(口腔内の喀痰吸引、鼻腔内の喀痰吸引、気管カニューレ内の喀痰吸引、胃ろうや腸ろうによる経管栄養または経鼻経管栄養)を必要とする利用者
14.看取り期の利用者への対応実績が1人以上
前年度(3月を除く)または届出月の前3ヶ月において、以下のどちらにも該当する看取り期の利用者が1人以上いることが求められます。
<看取り期の利用者>
①医師が一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがないと診断した者
②看取り期の対応方針に基づき、利用者の状態または家族の求めなどに応じて訪問介護員等からサービス※1の説明を受け、同意したうえでサービスを受けている者※2
※1 介護記録をはじめとした利用者に関する記録を活用しておこなわれるサービス
※2 利用者本人ではなく家族等が説明を受け、同意したうえでサービスを受けている者も含む
訪問介護の特定事業所加算の注意点
ローカルルールについて
要件の解釈は、指定権者によって異なる場合があります。例えば、要件2の会議に関しては、欠席者には議事録を後で共有すれば良いとする自治体もあれば、欠席者が出ないように同じテーマの会議を複数回開催することを求める自治体もあります。届出時には、各自治体に詳細を確認することをお勧めします。
訪問介護の特定事業所加算のよくある質問
「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」に掲載されている、Q&Aから、特定事業所加算についての質問のみ抜粋してご紹介します。詳しい内容は以下のリンクよりご確認いただけます。
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)令和6年度介護報酬改定に関するQ&A 問2
Q.新設された特定事業所加算(Ⅰ)・(Ⅲ)の重度要介護者等対応要件である看取り期の利用者への対応体制について、病院、診療所又は訪問看護ステーション(以下「訪問看護ステーション等」という。)の看護師との連携により 24 時間連絡できる体制を確保することとされているが、具体的にどのような体制が想定されるか。
A.「24 時間連絡ができる体制」とは、事業所内で訪問介護員等が勤務することを要するものではなく、夜間においても訪問介護事業所から連携先の訪問看護ステーション等に連絡でき、必要な場合には事業所からの緊急の呼び出しに応じて出勤する体制をいうものである。具体的には、
イ 管理者を中心として、連携先の訪問看護ステーション等と夜間における連絡・対応体制に関する取り決め(緊急時の注意事項や利用者の病状等についての情報共有の方法等を含む)がなされていること。
ロ 管理者を中心として、訪問介護員等による利用者の観察項目の標準化(どのようなことが観察されれば連携先の訪問看護ステーション等に連絡するか)がなされていること。
ハ 事業所内研修等を通じ、訪問介護員等に対して、イ及びロの内容が周知されていること。
といった体制を整備することを想定している。
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A 問3
Q.特定事業所加算(Ⅴ)の体制要件における中山間地域等に居住する者への対応実績について、具体的にどのように算出するのか。
A.中山間地域等に居住する者への対応実績については、利用実人員を用いて算定するものとされているが、例えば下記のような場合、前3月の平均値は次のように計算する(前年度の平均値の計算についても同様である。)。

(※)特別地域加算、中山間地域等における小規模事業所加算、中山間地域等に居住する者
へのサービス提供加算
(注1)一体的運営を行っている場合の介護予防訪問介護の利用者に関しては計算には含
めない。
(注2)特別地域加算等の算定を行っている利用者に関しては計算には含めない。
・中山間地域等に居住する利用者(A,D(特別地域加算等を算定する利用者 C を除く))
2人(1月)+2人(2月)+1人(3月) =5人
したがって、対応実績の平均は5人÷3月≒1.6 人≧1人
なお、当該実績については、特定の月の実績が1人を下回ったとしても、前年度又は前3月の平均が1人以上であれば、要件を満たす。
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A 問6
Q.特定事業所加算(Ⅲ)、(Ⅳ)の勤続年数要件(勤続年数が7年以上の訪問介護員等を 30%以上とする要件)における具体的な割合はどのように算出するのか。
A.勤続年数要件の訪問介護員等の割合については、特定事業所加算(Ⅰ)・(Ⅱ)の訪問介護員等要件(介護福祉士等の一定の資格を有する訪問介護員等の割合を要件)と同様に、前年度(3月を除く 11 ヶ月間。)又は届出日の属する月の前3月の1月当たりの実績の平均について、常勤換算方法により算出した数を用いて算出するものとする。
※ 令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.4)(令和3年3月 29 日)問 1 は削除する。
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A 問7
Q.「訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が 30%以上」という要件について、勤続年数はどのように計算するのか。
A.
・ 特定事業所加算(Ⅲ)、(Ⅳ)における、勤続年数7年以上の訪問介護員等の割合に係る要件については、
- 訪問介護員等として従事する者であって、同一法人等での勤続年数が7年以上の者の割合を要件としたものであり、
- 訪問介護員等として従事してから7年以上経過していることを求めるものではないこと(例えば、当該指定訪問介護事業所の訪問介護員等として従事する前に、同一法人等の異なるサービスの施設・事業所の介護職員として従事していた場合に勤続年数を通算して差し支えないものである。)。
・ 「同一法人等での勤続年数」の考え方について、
- 同一法人等(※)における異なるサービスの事業所での勤続年数や異なる雇用形態、職種(直接処遇を行う職種に限る。)における勤続年数
- 事業所の合併又は別法人による事業の承継の場合であって、当該事業所の職員に変更がないなど、事業所が実質的に継続して運営していると認められる場合の勤続年数は通算することができる。
(※)同一法人のほか、法人の代表者等が同一で、採用や人事異動、研修が一体として行われる等、職員の労務管理を複数法人で一体的に行っている場合も含まれる。
※ 令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.4)(令和3年3月 29 日)問 2 は削除する。
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A 問8
Q.勤続年数には産前産後休業や病気休暇の期間は含めないと考えるのか。
A.産前産後休業や病気休暇のほか、育児・介護休業、母性健康管理措置としての休業を取得した期間は雇用関係が継続していることから、勤続年数に含めることができる。
※ 令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.4)(令和3年3月 29 日)問 3 は削除する。
まとめ
訪問介護の特定事業所加算は、質の高いサービスを提供する事業所を評価する仕組みです。
加算は(I)から(V)まで5つの区分があり、算定要件は体制要件、人材要件、重度者等対応要件に分かれています。
2024年度介護報酬改定での変更点のうち、特に注目すべき点は、看取り期への対応体制の整備や中山間地域等居住者へのサービス提供、多職種共同による訪問介護計画の見直しなどが挙げられます。
訪問介護の特定事業所加算を取得することで、事業所の収入増加と介護サービスの品質向上につながることが期待されます