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介護の基礎知識

BPSDの評価スケール「DBD13」とは?評価基準や点数、解釈方法を解説

  • 公開日:2025年08月27日
  • 更新日:2025年08月27日

認知症の方にみられる「暴言」「介護拒否」「徘徊」などの行動・心理症状(BPSD)は、介護現場において日常的に直面する大きな課題のひとつです。こうした症状を適切に把握し、ケアに役立てるために活用されているのが、BPSDを評価するためのツール「DBD13(認知症行動障害尺度13項目版)」です。DBD13は、認知症の行動障害を13の項目に整理し、頻度を点数化して評価できるシンプルなスケールで、現場での経過観察やケアの効果測定に役立ちます。本記事では、DBD13の概要や評価基準、点数の解釈方法についてわかりやすく解説します。

BPSDとは?

BPSDとは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(認知症の行動・心理症状)」の略で、認知症の方に見られる行動や心理面の問題症状を総称したものです。記憶や判断力が低下する認知症では、日常生活にさまざまな変化が現れることがあります。BPSDには、徘徊や落ち着きのなさ、攻撃的行動といった行動上の症状だけでなく、不安や抑うつ、妄想・幻覚などの心理的な症状、さらに睡眠や食欲の変化も含まれます。

これらの症状は、本人の生活の質(QOL)を下げるだけでなく、介護者の負担を増やす要因にもなります。そのため、BPSDを正しく理解し、適切に評価することは、介護や医療の現場で非常に重要です。評価には、DBD13やNPIなどの専門的な尺度を用いて症状の重さや変化を把握し、薬物療法や環境調整、生活支援などの介入につなげます。

BPSDの理解と対応は、認知症の方が安心して生活できる環境を整えるうえで欠かせないポイントです。

BPSDの評価スケールとは?

BPSD(認知症の行動・心理症状)を適切に把握するためには、単に「症状がある・ない」だけでなく、症状の種類や頻度、重症度を評価することが重要です。ここで活用されるのが、BPSDを測定するための評価スケールです。BPSDの評価スケールは 認知症の行動や心理症状を可視化し、介護・医療の対応を適切に決めるためのツール です。評価スケールを定期的に使用することで、症状の変化に合わせた柔軟なケアが可能になります。

代表的な評価スケールであるDBD13は13項目を5段階で評価してBPSDの度合いを判断します。

DBD13以外にも、世界的に最も広く用いられているNPIやアルツハイマー型認知症に特化したBEHAVE-AD、特に「不穏(agitation)」に注目したCMAIなどの評価スケールがあります。

BPSDの代表的な評価スケール「DBD13(認知症行動障害尺度)」とは?

DBD13は、認知症の周辺症状、いわゆる行動・心理症状(BPSD)を簡潔に評価するための尺度です。もともとは1990年に「Dementia Behavior Disturbance scale(DBD)」として発表され、認知症患者の行動障害を把握するツールとして用いられてきました。

その後、町田綾子先生などの研究により、当初の28項目から因子分析を行い、より実用的な13項目に絞り込んだ短縮版が開発されました。これがDBD13です。DBD13では、認知症の軽度から重度までの行動異常を、各質問項目について5段階で評価できるようになっています。

この尺度は、平成25年度の厚生労働省の研究事業「認知症の早期診断・早期対応につながる初期集中支援サービスモデルの開発」においても有用性が認められ、認知症の周辺症状を評価するアセスメントツールとして活用されるようになりました。さらに、2021年4月からは科学的介護推進体制加算の項目にも採用され、介護保険サービスにおける重要な評価スケールとして位置づけられています。

DBD13は、対象者の行動障害の程度を的確に把握し、適切な介護計画を立てるための有効なツールです。今後も、認知症ケアの現場で幅広く活用されることが期待されています。

参考:認知症の早期発見、早期対応につながる初期集中支援サービスモデルの開発に関する調査研究事業(独立行政法人 国立長寿医療研究センター)

DBD13の項目と評価基準・点数

DBD13では13個の項目について、0〜4点の5段階で評価を行い、対象者の行動障害の度合いを評価します。0点は該当する行動が全く見られない場合、4点は頻繁に見られる場合を示します。DBD13の項目は以下の通りです。

項目 点数
1 同じことを何度も何度も聞く 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
2 よく物をなくしたり、置場所を間違えたり、隠したりしている 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
3 日常的な物事に関心を示さない 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
4 特別な理由がないのに夜中起き出す 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
5 特別な根拠もないのに人に言いがかりをつける 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
6 昼間、寝てばかりいる 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
7 やたらに歩き回る 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
8 同じ動作をいつまでも繰り返す 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
9 口汚くののしる 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
10 場違いあるいは季節に合わない不適切な服装をする 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
11 世話されるのを拒否する 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
12 明らかな理由なしに物を貯め込む 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
13 引き出しやたんすの中身を全部だしてしまう 0 ・ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4

DBD13の評価基準・採点方法

DBD13の評価基準と採点方法は以下の通りです。

評価基準

各項目は以下の基準に従って評価を行います。

  • 0点:該当する行動が全くない。
  • 1点:該当する行動がほとんどない。
  • 2点:該当する行動がときどきある。
  • 3点:該当する行動がよくある。
  • 4点:該当する行動が常にある。

採点方法

13項目それぞれについて、上述の評価基準に基づき0〜4点の範囲で点数を付けます。点数を付けたら各項目の点数を合計し、総合得点を算出します。総合得点は0〜52点になります。

DBD13では、1点でも得点があれば異常行動があると考えられます。明確なカットオフ値は設定されておらず、合計得点が高いほど問題行動の頻度が多いと考えることができます。

また、総合得点だけでなく、どの項目の点数が高い・低いかを分析することも重要です。

例えば、「同じことを何度も何度も聞く」の頻度が上がり、1→2になる・「明らかな理由なしに物を貯め込む」が3→2になるのように、新たな問題の発生や特定の行動異常が改善を把握することができ、対応策を考えることが可能になります。

具体的な例とその解釈

各項目の点数を付けて総合得点を合計した結果をどのように解釈すれば良いのでしょうか。以下では具体的な例とその解釈を見て行きます。

例えば、DBD13を活用してAさんを評価した結果、以下の点数がつけられたとします。

  1. 同じことを何度も何度も聞く:2点
  2. よく物をなくしたり、置き場所を間違えたり、隠したりしている:1点
  3. 日常的な物事に関心を示さない:1点
  4. 特別な理由がないのに夜中起き出す:1点
  5. 特別な根拠もないのに人に言いがかりをつける:3点
  6. 昼間、寝てばかりいる:2点
  7. やたらに歩き回る: 1点
  8. 同じ動作をいつまでも繰り返す:0点
  9. 口汚くののしる:4点
  10. 場違いあるいは季節に合わない不適切な服装をする:0点
  11. 世話されるのを拒否する:4点
  12. 明らかな理由なしに物を貯め込む:1点
  13. 引き出しやたんすの中身を全部だしてしまう:1点

ここから、Aさんの総合得点は21点となり、行動異常が見られると判断できます。

また、個別の項目を見てみると、「口汚くののしる」「世話されるのを拒否する」の点数が高くなっています。これらの点数が高い原因や対策を講じることで、不安を和らげる認知症ケアを行うことができます。

「口汚くののしる」「世話されるのを拒否する」の点数が高くなる要因として、以下が考えられます。

  • 不安や混乱:状況が理解できず、不安や恐怖が「暴言」という形で表れる
  • プライドや自尊心の低下:できないことが増え、自分を守るために攻撃的になる
  • 身体的要因:痛み、体調不良、薬の副作用などでイライラが強まっている
  • 環境要因:騒音・人混み・照明など、過敏に感じてストレスになっている

 

「落ち着いた声で対応し、感情的に反応しない」「本人の気持ちを受け止め、「○○が心配なんですね」と共感を示す」「静かな環境で安心できる空間を整える」「痛みや便秘、薬の影響など身体的要因を確認する」などの対策を行うことで、精神的苦痛を和らげることが可能です。これらの対策は、行って終わりではなく、実施後もDBD13の評価を定期的に行い、行動異常に対してどの対策が効果的であったか、PDCAを回すことが重要です。

DBD13の評価項目の意味

DBD13の13項目はそれぞれ何を評価しようとしているかが異なります。各項目の意味を理解することで、認知症の状態の判断や対策につなげやすくなります。

  1. 同じことを何度も何度も聞く
    記憶障害の影響で、同じ内容を何度も確認する行動です。軽度から中等度の認知症で観察される症状で、介護者の大きな負担となりやすい典型的な症状です。
  2. よく物をなくしたり、置き場所を間違えたり、隠したりしている
    記憶障害が背景にあり、時には自分の失敗を隠そうとする「取り繕い反応」が加わることもあります。
  3. 日常的な物事に関心を示さない
    「アパシー(無気力)」と呼ばれる状態で、趣味や生活への意欲が低下します。
  4. 特別な理由がないのに夜中起き出す
    睡眠障害の一つで、昼夜逆転の生活リズムがみられることがあります。
  5. 特別な根拠もないのに人に言いがかりをつける
    興奮や怒りやすさの表れであり、不安や自信のなさが背景にある場合もあります。
  6. 昼間、寝てばかりいる
    夜間の不眠や睡眠障害により、日中に過剰な眠気が現れるケースです。
  7. やたらに歩き回る
    不安や落ち着きのなさが原因で起こる多動行動の一種です。
  8. 同じ動作をいつまでも繰り返す
    常同行動と呼ばれ、不安や落ち着きのなさが背景にあります。
  9. 口汚くののしる
    興奮や怒りやすさの表れであり、自信の無さの裏返しでもあります。
  10. 場違いあるいは季節に合わない不適切な服装をする
    時間感覚の乱れや、段取りを組む力の低下、自己判断の障害を反映しています。
  11. 世話されるのを拒否する
    自分の状態を理解できない「病識の欠如」や、自己判断の障害が関わっています。
  12. 明らかな理由なしに物を貯め込む
    実行力や記憶力の低下に加え、潜在的な不安感の現れの場合もあります。
  13. 引き出しやたんすの中身を全部だしてしまう
    多動や段取り力の障害が背景にあり、時に興奮や怒りやすさの現れの場合もあります。
参考:認知症初期集中⽀援チーム員研修 テキスト|厚生労働省老人保健健康増進等事業

DBD13とNPI-NH・BEHAVE-AD・CMAIの違い

BPSDの評価スケールはDBD13以外にもNPI-NH・BEHAVE-AD・CMAIなどが存在しますが、評価項目などが異なります。

NPI

NPIは妄想、幻覚、興奮、うつ症状、不安、多幸、無為、脱抑制、易刺激性、異常行動の10項目の精神症候を評価するBPSDの評価スケールです。介護負担の評価が加わるNPI-Dや、施設入所者用のNPI-NH、質問紙を使用するNPI-Q等の各種バージョンがあります。

BEHAVE-AD

BEHAVE-ADはアルツハイマー病(AD)のBPSDを評価するもので、介護者等の情報提供者からの情報に基づいて7つの解釈度の25項目について0〜3までの4段階で重症度を評価するBPSDの評価スケールです。

CMAI

CMAIは一定期間内の具体的な行動障害の出現頻度を介護者が評価します。 攻撃的行動、非攻撃的行動の2つのカテゴリーに分けて評価され、Behave-ADの2つの下位尺度の代替として使用可能です。

参考:認知症の診断|日本神経学会

長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSEはBPSDを評価するスケールではない

長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSEはDBD13と同様に認知症を評価するスケールではありますが、これらは認知機能全般を評価するスケールであり、認知症の行動・心理症状(BPSD)を評価するスケールではありません。

DBD13と長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)・MMSEの違いは以下の通りです。

DBD13 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) MMSE
評価対象 認知症の行動・心理症状 認知機能全般 認知機能全般
評価内容 行動異常の頻度や程度 記憶、見当識、計算などの基本的認知機能 記憶、見当識、計算、言語機能などの基本的認知機能
評価項目数 13項目 9項目 11項目
評価方法 5段階評価(0〜4点) 合計52点満点 各項目を点数で評価(合計30点満点)カットオフ値:20点 各項目を点数で評価(合計30点満点)カットオフ値:23点
使用目的 行動異常の特定と対策 認知症のスクリーニングと進行度評価 認知症のスクリーニングと進行度評価
所要時間 5~10分 5~10分 10〜15分

長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

「長谷川式認知症スケール」は、一般の高齢者の中から認知症の可能性がある方をスクリーニングするための簡易的な認知機能テストで、記憶を中心とした大まかな認知機能障害の有無を調べる目的で用いられます。

見当識や記憶力、計算などの認知機能を評価する9つの項目から構成されており、「年齢はいくつですか」「今日は何年何月何日何曜日ですか?」などの質問があります。口頭で質問を投げかけ、受検者に回答してもらうという形式で行います。テストの所要時間は5~10分程度です。30点満点で評価され、20点以下の場合は認知症の疑いが高いと判定されます。

長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)について詳しくは以下をお読みください。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)とは|点数基準ややり方

MMSE

MMSE(ミニメンタルステート検査)は長谷川式認知症スケールとともに、認知症の評価に使用されるテストです。アメリカで開発された認知機能テストで、世界中で広く活用されています。

MMSEは11項目と数が多く、実施には10〜15分程度かかるのが特徴です。テストの内容は、時間や場所の見当識、計算、文章の復唱、図形模写などの評価項目で構成されています。また、MMSEは口頭での回答に加えて、文章の記述や図形の描写などが求められる点が特徴で、口頭のみで行う長谷川式認知症スケールとは異なります。30点満点で評価され、23点以下の場合は認知症の疑いがあると判定されます。

まとめ:BPSDはDBD13で評価することが可能です

DBD13は、認知症に伴う行動障害を「13項目・5段階」で評価するスケールであり、症状の有無や強さを客観的に把握できるツールです。総合得点から行動異常の有無を判断するだけでなく、どの項目の点数が高い傾向にあるのかを分析し、項目に応じた対策を講じることでよりよい認知症ケアに繋がります。DBD13を活用しつつ、個別の状況に応じた柔軟な支援を行いましょう。

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