介護の基礎知識
介護の口腔ケアのやり方とは?ポイントや正しい手順を解説
- 公開日:2025年08月27日
- 更新日:2025年08月27日

口腔ケアは、単に歯を磨くだけのケアではなく、全身の健康や生活の質に直結する重要なケアです。特に高齢者や介護が必要な方の場合、口腔内の清潔を保つことは、誤嚥性肺炎や感染症の予防、食べる力や会話の維持にもつながります。しかし、正しい方法を知らないまま行うと、効果が十分に得られなかったり、かえって体に負担をかけてしまうこともあります。
本記事では、介護現場で実践できる口腔ケアのポイントや、利用者の状況に合わせた正しい手順をわかりやすく解説します。
口腔ケアとは?
口腔ケアとは、口の中を清潔に保ち、口腔機能を維持・改善するためのケアを指します。単に「歯磨き」だけを意味するのではなく、舌や歯ぐき、粘膜など口腔全体の健康を保つための取り組み全般を含みます。
介護現場や医療の場では、口腔ケアは非常に重要なケアのひとつとされています。口の中が不衛生になると、虫歯や歯周病だけでなく、細菌が肺に入ることで誤嚥性肺炎を引き起こすリスクも高まります。また、口腔機能が低下すると「食べる」「話す」といった日常生活の基本的な動作に影響を及ぼします。口腔ケアを行い、口内を清潔に保つことは、健康的な日常生活を送るためにも非常に重要です。
口腔ケアの種類
口腔ケアには「器質的口腔ケア」と「機能的口腔ケア」があります。それぞれの違いは以下の通りです。
器質的口腔ケア
器質的口腔ケアとは、歯や口腔内を物理的にきれいにするケアのことを指します。具体的には歯ブラシやスポンジブラシ、口腔ケア用のウェットシートなどを使い、歯垢や食べかすを取り除き、口腔内を清潔に保ちます。器質的口腔ケアの目的は以下のとおりです。
- 虫歯や歯周病の予防
- 口臭の軽減
- 感染症や誤嚥性肺炎の予防
- 快適な口腔環境の維持
介護や医療の現場では、利用者本人が歯磨きを十分に行えない場合が多く、介助者による器質的口腔ケアが欠かせません。毎日のケアによって口腔内の衛生状態を整えることが、全身の健康維持にもつながります。
機能的口腔ケア
機能的口腔ケアとは、口腔や嚥下(飲み込み)機能の維持・改善を目的としたリハビリ的なケアです。口や舌、頬、唇などの筋肉を動かす訓練を通して、「食べる」「飲み込む」「話す」といった生活に直結する機能をサポートします。機能的口腔ケアの具体例には以下のようなものがあります。
- 舌や口の体操(舌を左右に動かす、頬を膨らませるなど)
- 発声練習(「あー」「ぱ・た・か・ら」といった発声訓練)
- 唇や頬のマッサージ
- 嚥下体操(首や肩のストレッチを含む)
機能的口腔ケアは、食べる力・飲み込む力の維持や誤嚥や窒息の予防、発音や会話のしやすさ向上、食事や会話を楽しむことによる生活の質(QOL)の向上を目的に行われます。
介護の口腔ケアを行うメリット

口腔ケアは、単に口の中をきれいにするだけでなく、全身の健康や生活の質(QOL)にも大きく関わっています。特に高齢者や介護が必要な方にとって、口腔ケアの有無が健康状態や生活の快適さを大きく左右することがあります。ここでは、口腔ケアを行う主なメリットをご紹介します。
虫歯や歯周病の予防
毎日の口腔ケアにより、歯垢や食べかすを除去することで虫歯や歯周病の発症を防ぎます。歯や歯ぐきを健康に保つことは、食事を楽しむための基本となります。
QOLの向上
口腔ケアによって口の中が清潔になると、爽快感や安心感を得られます。また、口腔機能が維持されることで、「美味しく食事が食べられる」「会話がしやすい」といった自立につながり、自己肯定感の向上にも結びつきます。食事や会話を楽しめることは、人との交流や社会参加の意欲を高め、精神的な喜びをもたらします。
誤嚥性肺炎の予防
口腔内の細菌が増えると、食べ物や唾液と一緒に肺に入り込み、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まります。口腔ケアで細菌を減らすことは、肺炎予防につながります。
食べる力・飲み込む力の維持
機能的口腔ケアを通じて、舌や口の筋肉を動かす訓練を行うことで、咀嚼や嚥下機能の低下を防ぎます。これにより「むせやすい」「飲み込みにくい」といったトラブルを軽減できます。また、しっかり噛んで食べることによって消化が良くなり、栄養の吸収も良くなります。
口臭の軽減と快適な生活
口腔内の汚れや細菌は、口臭の原因にもなります。定期的な口腔ケアで口臭を抑えることができ、周囲とのコミュニケーションも快適になります。
認知症予防
「噛む」動作は脳を刺激し、血流を促進するといわれています。咀嚼機能が低下すると認知機能の低下にもつながるため、口腔ケアを通じて噛む力を保つことは認知症予防にも効果が期待されています。
食欲増進
口の中が清潔であると、食べ物の味や香りを感じやすくなります。口腔内の不快感が減ることで食欲がわきやすくなります。
全身の健康維持
口腔ケアを怠ると歯周病菌などが血流を通じて全身に影響を及ぼし、動脈硬化・糖尿病・早産・感染性心内膜炎・脳梗塞といった病気のリスクが高まることが知られています。口腔を清潔に保つことは、これらの重大な疾患の予防にもつながります。
介護の口腔ケアを行う際のポイント

安全な介護の口腔ケアを行う際には、注意すべきポイントがいくつかあります。
なるべく利用者本人に自力で行ってもらう
口腔ケアは、可能な限り利用者本人が自分で行うことが望ましいです。自力で歯を磨く、口をゆすぐといった動作は、口や手先の機能の維持に直結します。また「自分でできている」という自立心や達成感は、精神的な活力にもつながります。できる限り利用者自身に行っていただき、仕上げは介助者が行うことで磨き残しを防ぎましょう。
短時間で終わらせる
口腔ケアは毎日の習慣として取り入れるものです。長時間かかると負担が大きく、本人にとっても苦痛になり、口腔ケアを嫌がるようになる可能性があります。口腔ケアに必要な道具をあらかじめ用意して整えておく、声かけをしながら手際よく進めるなど、できるだけスムーズに行うことで、口腔ケアを長く継続しやすくなります。
姿勢に気を付ける
口腔ケアの際は、誤嚥を防ぐために姿勢への配慮が欠かせません。椅子に座って俯き気味の姿勢で行うのが基本です。顎を上げると唾液を誤嚥し、誤嚥性肺炎を引き起こす場合があるため注意しましょう。口腔ケアをベッド上で行う場合も上体を45度~60度程度起こすか、横を向いて行うと安全です。
口内を観察する
口腔ケアの際は、ただ清掃するだけでなく、口の中をよく観察することも重要です。歯ぐきの腫れや出血、口内炎、舌の汚れ、歯がなくなっていないか、義歯の不具合などをチェックすることで、病気の早期発見につながります。利用者自身で口腔ケアを行う場合も、口腔ケアの前に口の中をチェックすることで、磨き残しを防ぐことができます。
本人の体調や状態に合わせる
体調がすぐれないときや嚥下機能が低下しているときに無理に口腔ケアを行うと、かえって危険を伴ったり、利用者が苦痛に感じ、口腔ケアを拒否するようになる場合があります。その日の体調や意欲に合わせて方法や時間を調整することが大切です。たとえば体調が優れない日は、歯磨きではなく口腔ケア用のスポンジやうがいで対応するなど、柔軟に対応することが求められます。
介護の口腔ケアを行う手順

介護の口腔ケアは以下の手順に沿って行うと、効果的で安全なケアを行うことが可能です。
①口内のチェック
ケアを始める前に、口の中をよく観察します。歯ぐきの腫れや出血、口内炎、舌の汚れ、義歯の不具合などがないか確認しましょう。異常がある場合は、無理に進めず専門職に相談します。
②うがい
口腔内を軽くすすぎ、食べかすや乾燥した粘膜を湿らせます。うがいが難しい場合は、湿らせたガーゼやスポンジで口の中を潤すとよいでしょう。
③安全な姿勢の確保
椅子に座ってもらい、俯き気味の姿勢を確保して誤嚥を防ぎましょう。ベッド上で口腔ケアを行う場合は上体を45度~60度程度起こすか、横を向いてもらいましょう。
④歯の清掃
歯ブラシを使い、歯の表面や歯と歯の間を丁寧に清掃します。力を入れすぎると歯ぐきを傷つけるため、やさしく小刻みに動かすのがポイントです。
- 利用者自身で歯の清掃が行える場合
自分で歯磨きができる方は、できる限り本人に行っていただくのが基本です。自力での歯磨きは、口腔機能の維持に加え、日常生活の自立や自尊心の保持にもつながります。ただし、磨き残しや清掃の不足があることも多いため、介護者やスタッフは仕上げ磨きや口腔内のチェックを行い、清掃が不十分な部分を補うようにしましょう。 - 介助が必要な場合
手や腕の動きが不自由で歯磨きが難しい方には、本人が安心して口を開けられるように声をかけながら介助を進めます。 - 寝たきりや重度障害など、誤嚥の可能性が高い場合
誤嚥の可能性が高い場合は、保湿ジェルをつけてタフトブラシで汚れを浮かせ、不織布やガーゼで拭き取ります。
⑤粘膜の清掃
歯だけでなく、頬の内側や上あご、唇の裏側などの粘膜部分も汚れがたまりやすい場所です。スポンジブラシやガーゼを使ってやさしく拭き取り、清潔に保ちましょう。
⑥舌の清掃
舌の表面は細菌がたまりやすく、口臭の原因にもなります。舌ブラシやスポンジブラシを用い、奥から手前へやさしくぬぐいます。力を入れすぎないように注意してください。
⑦頬のストレッチ
口の機能を維持するために、口腔体操を取り入れます。頬を膨らませたり、左右に動かしたりすることで、口周りの筋肉を鍛え、咀嚼や嚥下機能の維持につながります。
⑧うがい
もう一度うがいを行い、口腔内に残った汚れや清掃後のカスを洗い流します。洗口液を使用しても良いでしょう。うがいができない場合は、スポンジやガーゼで優しく拭き取ります。
⑨義歯の洗浄
入れ歯の洗浄手順は以下の通りです。
- 食べ物の残りかすなどをすすぎます。
- 義歯用ブラシでブラッシングします。
- すすぎます
- 週に2~3回は義歯洗浄剤につけ置きします。
口腔ケアのおすすめ用品
口腔ケアを効果的に行うためには、状況に合わせて適切な用具を選ぶことが大切です。ここでは代表的な用品とその特徴についてご紹介します。
歯ブラシ
毛先がやわらかいものを選び、歯や歯ぐきを傷つけないように使います。利用者の口の大きさや状態に合わせて、ヘッドの小さなタイプを選ぶのもポイントです。
タフトブラシ

先端が小さく、1本の毛束でできている歯ブラシです。奥歯の裏側や歯並びの狭い部分など、普通の歯ブラシでは届きにくい場所の清掃に適しています。部分的な磨き残しを防ぐために活用します。介護者の仕上げ磨きにも活用されます。
歯間ブラシ・デンタルフロス
歯と歯の間に残った汚れを取り除くための道具です。歯間ブラシは小さなブラシを隙間に通して清掃するもので、歯ぐきが下がって隙間が広い方に適しています。デンタルフロスは細い糸で、隙間が狭い場合や歯ぐきの健康を保ちたい方に有効です。
スポンジブラシ

柔らかいスポンジが先端についたブラシで、歯や粘膜をやさしく清掃できます。特に嚥下機能が低下している方や、寝たきりでうがいが難しい方に適しており、誤嚥のリスクを減らしながら口腔内をきれいにできます。基本的には使い捨てです。
舌用ブラシ
舌の表面に付着する舌苔(ぜったい)を除去するための専用ブラシです。口臭予防や細菌の繁殖防止に効果的です。通常の歯ブラシよりも舌を傷つけにくく設計されています。
バイトブロック
口を開けるのが難しい方のために使用する補助具です。歯の間に軽くかませて口を開いた状態を保ち、介助者が安全にケアを行えるようにします。無理に口をこじ開ける必要がないため、本人の負担が軽減されます。
入れ歯用ブラシ・洗浄剤

入れ歯用ブラシは、通常の歯ブラシよりも硬めの毛が使われています。食べかすや歯垢をしっかり落とせるため、義歯を長持ちさせ、口内のトラブルも防ぎます。
入れ歯用洗浄剤は定期的に利用することで、目に見えない菌を除去することができます。
うがい受け(ガーグルベースン)

口をゆすいだ水やケア中に出た汚れを受け止めるための容器です。ベッド上でも使用できるように設計されており、介助する側にとっても便利な道具です。
口腔ケア用のジェルや保湿剤
口腔内の乾燥を防ぎ、粘膜を保護するために使います。高齢者や薬の副作用で唾液が少なくなっている方に特に有効です。乾燥を防ぐことで、細菌の繁殖を抑え、口臭や感染症の予防にもつながります。
まとめ

口腔ケアは、利用者の健康を守り、生活の質を向上させるために欠かせないケアです。ポイントを押さえて行うことで、虫歯や歯周病の予防だけでなく、誤嚥性肺炎や認知症予防、食欲増進、QOLの向上にもつながります。
本記事で紹介したポイントや、正しい手順を組み合わせることで、より安全で効果的な口腔ケアが可能です。日々のケアに取り入れ、利用者の健康と快適な生活を支えていきましょう。