介護の基礎知識
介護施設での誤薬事故の原因や対策とは?
- 公開日:2025年06月05日
- 更新日:2025年06月05日

高齢化が進む現代社会において、介護施設の役割はますます重要になっています。しかし、その一方で「誤薬(ごやく)」による事故が後を絶ちません。誤薬とは、薬の種類や量、投与のタイミングなどを誤ってしまうことを指し、場合によっては重大な健康被害をもたらすこともあります。この記事では、介護施設で誤薬が起こる主な原因を明らかにし、それに対する効果的な対策や予防策について解説します。
介護の誤薬とは?
誤薬とは、薬の使用において「本来あるべき方法や内容と異なるかたちで薬を与えたり服用したりすること」を指します。つまり、「間違った薬の与え方」によって起こるミスや事故のことです。医療現場や介護施設などで発生し、高齢者や病気を抱える方にとっては重大な健康リスクになることがあります。
誤薬にはいくつかの典型的なパターンがあります
- 薬の種類の間違い
本来使うべき薬と「別の薬」を誤って与えてしまうケースです。 - 服用者の取り違え
複数の利用者がいる中で、薬を別の人に渡してしまうケースです。 - 用量のミス
服用量が多すぎる、または少なすぎる。錠剤の数や滴下数を間違えることがあります。 - 服用時間・タイミングの誤り
本来「食前」に飲むべき薬を「食後」に与える、または飲ませ忘れてしまうケースです。 - 薬の形状・投与方法の間違い
経口薬を点滴にしてしまう、坐薬を飲ませてしまうなど、使い方を誤るケースもあります。 - 薬を飲めない・飲まない場合
飲み忘れや薬の紛失、薬の落下や服用拒否、吐き出してしまうなのど理由から薬を飲まないもしくは飲めない場合があります。
なぜ介護施設での誤薬が問題なのか?
誤薬は、次のような重大なリスクをもたらす危険な事故です。
- 健康被害(副作用や中毒)
本来服用すべきでない薬を飲むことで、体調が悪化する恐れがあります。 - 症状の悪化・治療の遅延
必要な薬が適切に投与されないため、病状が進行する可能性があります。 - 命に関わる事故
特に高齢者や重篤な疾患を持つ方では、少量の誤薬でも致命的になることがあります。
誤薬は、介護や医療の現場で決して起きてはならない事故のひとつです。忙しい現場だからこそ、確認作業の徹底、情報共有、職員教育などが必要不可欠です。
介護現場での誤薬の主な事例3パターン

誤薬はご利用者の命にかかわる事故のため、発生させていけません。しかし、介護現場では誤薬事故が存在しているのが現状です。以下では誤薬の主な事例3パターンをご紹介します。
① 薬の取り違え(患者の取り違え)
同じフロアに入居しているAさんとBさんは、年齢や体格が似ており、日頃からスタッフ間でも間違えやすいとされていました。ある日、担当職員が朝食後の投薬を行う際、確認を怠ってBさんにAさんの降圧剤を誤って手渡し、服用させてしまいました。その後、Bさんの血圧が低下し、体調不良を訴えたことで誤薬が発覚。職員は薬を配る際のダブルチェックを怠っていたことが原因でした。
② 薬の時間・回数の誤り
Cさんには、眠前に1回だけ服用する睡眠導入剤が処方されていました。服薬対応を行ったスタッフはCさんの服薬完了後に別のスタッフに声をかけられ離席。その後、業務再開時に服薬をまだ終えていないと勘違いし、もう一度睡眠薬を渡してしまいました。Cさんは1時間以内に同じ薬を2回服用したことになり、翌朝まで深い眠りから覚めず、バイタルチェックでも反応が鈍くなっていました。医師の指示により経過観察し、大事には至りませんでしたが、薬の管理やダブルチェック、記録を怠ったことが原因でした。
③ 薬の飲み忘れ
Dさんはパーキンソン病の薬を1日3回、一定の間隔で服用する必要がありました。しかし、日中のレクリエーション活動に参加していた際、スタッフが服薬の時間を過ぎていることに気づかず、昼の分の薬を飲み忘れてしまいました。夕方になってからDさんが「手が震える」「動きづらい」と訴えたことで飲み忘れが発覚。医師に報告し、次回の服薬までの対応が指示されました。服薬タイミングが症状に直結する持病では特に、管理ミスが生活の質に影響する重大な問題になります。
介護施設で誤薬が起こる主な原因

誤薬が起こる主な原因は、「人的要因」「環境要因」「システム要因」などが複合的に絡んでいます。具体的な原因は以下の通りです。
確認不足
薬の投与時に本来必要な「利用者の名前」「薬の種類」「用法・用量」などの確認が不十分なまま投与してしまうケースです。特に、忙しい時間帯やスタッフが少ないとき、慣れから確認を省略してしまうことがあります。また、夜勤帯や人員交代時など、緊張感が緩みやすい場面でも発生しやすく、誤薬の大きな要因となっています。
記録ミス・情報共有の不備
医師の処方変更や服薬中止の指示があっても、その情報が介護記録や服薬リストに反映されていない、あるいは情報が関係職員間で正しく共有されていないことで誤薬が発生します。特に、紙の記録と口頭伝達のみに頼っている施設では、リアルタイムでの記録の記入や複数人のスタッフ間での情報共有・確認を行うことができず、申し送り漏れや記入ミスが原因となりやすいです。
薬の保管ミス・取り間違い
複数の利用者の薬が同じ棚や容器に保管されている、または似たような包装・形状の薬が並べられていることで、薬を取り間違えるケースがあります。特に、一包化された薬のラベル表示が小さい、文字がかすれている、読みづらいなどの状況では、確認不足とあいまって誤薬が起きやすくなります。薬の整理整頓と視認性の確保が重要です。
時間帯の確認漏れや誤認
「朝食後」「昼食後」「眠前」など、服薬の時間が明確に決められているにもかかわらず、時間の把握やスケジュール管理が不十分なことで投与タイミングがずれる、または過剰に与えてしまうケースです。服薬のタイミングが治療効果に大きく影響する薬剤(例:パーキンソン病治療薬、血糖降下薬など)では、特に重篤な影響を及ぼすことがあります。
職員の経験不足や教育体制の不備
新人職員やアルバイトスタッフ、応援スタッフなどが、薬の種類や副作用、服薬の重要性を十分に理解しないまま業務にあたると、誤薬のリスクが高まります。特に、マニュアルが整備されていない、OJTが不十分な施設では、判断に迷った際に確認せずに自己判断で対応してしまう場面も見られます。教育研修や初期指導の充実が必要です。
利用者の発言を鵜吞みにしてしまう
認知症や高次脳機能障害などをもつ利用者が「もう薬は飲んだ」と言ったことで、実際には飲んでいないにもかかわらず服薬済みと誤認されるケースがあります。逆に、すでに服用しているのに「まだ飲んでいない」と訴えることもあり、職員が利用者の言葉をうのみにしてしまうことで重複投薬につながることもあります。記録や状況観察を基にした客観的判断が必要です。
誤薬を防ぐ対策

ダブルチェックの徹底
誤薬防止の基本は「確認作業の徹底」です。薬を投与する際は、必ず利用者の名前・薬剤名・用量・用法・時間帯を確認し、2名体制でダブルチェックを行うようにします。特に夜勤や忙しい時間帯こそ、あえて立ち止まり「声に出して読み上げる確認(指差し確認)」を習慣化することが効果的です。チェックリストや専用の服薬確認表を使うことで、属人的なミスを減らせます。
服薬管理システムや記録ツールの活用

電子カルテや服薬支援アプリなどのICTツールを活用することで、処方変更や薬の中止情報をリアルタイムで共有できます。特に、一包化された薬のバーコードやQRコードを読み取って投薬管理を行う仕組みを導入すれば、人為的ミスを大幅に減らせます。また、過去の投薬履歴や残薬情報も記録されるため、ダブり投薬や飲み忘れの確認にも有効です。
薬の保管方法を見直す
薬は、利用者ごと・時間帯ごとに整理整頓し、わかりやすくラベル表示をすることが重要です。薬剤トレーを利用者別に分け、色分けやマーク、写真などで視覚的に識別しやすくすると、取り間違いを防げます。また、「飲み薬」「塗り薬」「点眼薬」など、剤形ごとに保管場所を明確に区分することで、用途の取り違えも防止できます。
情報共有と申し送りの強化
薬の処方内容が変更された場合は、記録を迅速かつ正確に更新し、職員間での共有を徹底する必要があります。紙ベースの場合でも、赤字で強調表示をするなど、視認性を高める工夫が有効です。日々の申し送りでは「薬の変更や中止があったか」「誰が確認したか」などを明文化し、曖昧な情報伝達を避ける体制を整えます。できれば看護師や薬剤師との連携も密にしておくと安心です。
利用者とのコミュニケーションを活かす

認知症の方や意思疎通が難しい方を除き、可能な限り利用者本人にも「薬の名前」「飲むタイミング」「飲んだかどうか」を確認する習慣をつけると、誤薬の発見にもつながります。また、日常的に利用者と信頼関係ができていれば、「いつもと違う」「体調が変だ」といった小さな異変にも早く気づくことができます。利用者の言葉を鵜呑みにせず、記録との照合を怠らないことも大切です。
職員研修・OJTの定期実施
新人職員や異動者に対しては、初期段階でしっかりと服薬に関する研修を行い、「誤薬のリスク」「過去の事例」「確認の重要性」などを丁寧に伝えることが不可欠です。特に、ベテラン職員がどのように確認しているかを実地で学べるOJTの仕組みは、現場力を高めるために有効です。また、定期的に実施する研修やヒヤリ・ハット共有の場を通じて、チーム全体の意識を高めていくことも大切です。
服薬タイミングの見直しや簡素化

多剤併用の高齢者では、服薬回数が多くなることでミスのリスクも増えます。主治医や薬剤師と相談しながら、服薬タイミングを「1日2回にまとめる」「できるだけ一包化する」など、現場で管理しやすいように調整してもらうのも一つの対策です。薬の整理を通じて「本当に必要な薬か?」を見直す機会にもなり、ポリファーマシー対策にもつながります。
誤薬が発生したときの対処法
誤薬が発生した際は、まず利用者の体調確認を最優先に行い、意識やバイタルに異常がないか観察します。同時に、すぐに看護師や医師へ報告し、薬の種類や誤薬の内容(量・タイミング・薬の取り違えなど)を伝え、必要な指示を仰ぎます。
利用者の体調に変化がなくても、一定時間は慎重に経過観察を続けることが重要です。その後、状況に応じてご家族にも事実を丁寧に説明し、謝罪とともに経過を報告します。施設内では、事故報告書や介護記録に事実を正確に記録し、関係職員に情報共有します。最後に、同様の誤りを防ぐために原因を振り返り、チェック体制やマニュアルの見直しを行い、再発防止策を講じます。
誤薬を防ぐ服薬介助の正しい手順

①薬の準備と確認
利用者ごとに薬を準備し、氏名・薬の内容・服薬時間・服用方法を確認します。ラベルや服薬表と照らし合わせ、間違いがないかを丁寧にチェックしましょう。自分だけでなく、他の職員にもダブルチェックしてもらいましょう。
②声かけと本人確認
利用者に声をかけ、「○○さん、お薬の時間です」と伝えながら、氏名の確認や顔の一致を確認します。自ら名前を言ってもらうとより確実です。
③薬の説明と確認
「いつものお薬ですね」「食後のお薬です」など、簡単な説明を加えながら、利用者が納得して服薬できるよう配慮します。認知症の方には短く明確な説明を行います。
④服薬介助の実施
必要に応じて姿勢を整え、座位での服薬を基本とします。薬を口に運ぶ際は、本人が自分で飲めるよう支援し、無理に口に入れないよう注意します。薬が飲みにくいご利用者には、医師や薬剤師と相談の上で服薬ゼリーやオブラートを活用するなど、飲みやすくする工夫が必要です。
⑤服薬の確認
確実に飲み込んだかを目視で確認します。口の中に薬が残っていないか、飲み込んだ後の様子にも気を配ります。
⑥服薬後の記録
介助が終わったら、誰が・いつ・何の薬を介助したかを正確に記録します。飲み忘れや拒否、体調の変化などがあった場合は、併せて記録・報告します。
⑦薬の後片付けと再確認
薬の残りや異変がないかを確認し、次回の服薬に備えて薬の保管状態もチェックします。空の薬袋は捨てずに一時的に保管します。
まとめ:誤薬の原因を改善し、安全な環境づくりを行いましょう
介護施設における誤薬事故は、ヒューマンエラーや情報伝達ミス、薬の管理体制の不備など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発生しています。しかし、職員間のコミュニケーションの強化や、薬のダブルチェック、ICTの導入などの対策を講じることで、事故のリスクを大幅に減らすことが可能です。利用者の安全を最優先に考えた介護を実現するためには、現場全体での意識改革と継続的な改善が欠かせません。日々の業務の中で、小さな工夫と配慮を積み重ねていくことが、誤薬のない安心できる施設づくりへの第一歩となります。
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