介護の基礎知識
TUGテストのカットオフ値や測定方法・評価方法とは
- 公開日:2025年05月12日
- 更新日:2025年05月12日
高齢者に実施されるTUGテスト(タイムアップアンドゴー)は、バランスや運動器不安定症の評価、さらには転倒リスクの予測に役立つ重要な検査です。この記事では、TUGテストの測定方法や評価方法、カットオフ値(基準値)について詳しく解説します。初めて評価を行う方々のために、基礎知識として参考にしていただけますと幸いです。
TUGテストとは?
TUGテスト(Timed Up & Go Test)は、歩行能力、動的バランス、敏捷性などを総合的に評価するテストで、1991年にPodsiadlo & Richardsonらによって考案されました。
多くの研究者によって研究が進められ、TUGテストは特に転倒リスクの高い方の評価に有用なツールとして広く認識されています。特に高齢者の運動機能に関する信頼性が高く、下肢筋力、バランス、歩行能力、転倒リスクといった日常生活機能との関連性が強いことが示されています。このため、TUGテストは医療現場のみならず、介護現場でも重要な評価ツールとして活用されています。
また、現在の通所リハビリテーション計画書では、移動能力の評価として「TUGテスト」または「6分間歩行テスト」の実施が求められています。このことからも、TUGテストは医療・介護現場での高齢者や患者様の移動能力評価において非常に重要であると言えるでしょう。
TUGテストで分かること
TUGテストの結果からは、主に「高齢者の転倒リスク」と「運動器不安定症の診断基準」が明らかになります。つまり、TUGテストのカットオフ値を知ることで、転倒や骨折の危険性を早期に把握し、要介護状態への進行を防ぐことが可能となります。
TUGテストの測定方法

TUGテストで準備するもの
TUGテストは、高齢者の転倒リスクを把握するための簡便な評価方法です。測定には、直線で約3メートルの距離と必要な物品を準備すれば、すぐに検査を始めることができます。
【TUGテストで準備するもの】
- ストップウォッチ
- 椅子
※肘掛けはあり・なしどちらでも問題ありません
※椅子に深く腰掛けて、両足が床につく高さの椅子を用意します - ミニコーン
- メジャー
※3mを測定するために必要です
TUGテストの測定方法
【測定方法】
①測定準備
測定を開始する前に、背もたれに軽くもたれかかり、肘かけがある椅子では肘かけに手を置き、肘かけがない椅子では手を膝に置いた状態からスタートします。両足が床につくように配置します。
②測定開始
次に、椅子から立ち上がり、3メートル先の目印を回ってから再び椅子に座るまでの時間を測定します。測定は、身体の一部が動き始めた時からお尻が椅子に戻るまでの時間を計測します。
③2回目の測定
この一連の動作を、「通常の歩行速度」(安全で快適な速度)と「最大の歩行速度」の2回実施します。2回の測定結果から、より短い時間(速い時間)を選び、その時間を小数点以下1桁まで記録します(2桁目は四捨五入)。
コーンの回り方は、右回りでも左回りでも問題ありません。また、日常生活で歩行補助具(杖など)を使用している場合は、そのまま使用して測定を行います。
※原法では「楽な速さ」で測定しますが、E-SASでは「できるだけ早く歩く」という条件下で測定します。このように最大限の努力を求めることで、測定時の心理的な影響や教示の解釈の違いによる結果のばらつきを排除することを目的としています。
TUGテストの測定方法については以下の動画を参考にしていただけます。
TUGテストのカットオフ値
一般的なカットオフ値
高齢者の転倒リスク予測として一般的に参考にされているTUGテストのカットオフ値は以下の通りです。
- 13.5秒以上:転倒リスクが予測される
- 30秒以上:起居動作や日常生活動作に介助が必要
日本整形外科学会の定めるカットオフ値
日本整形外科学会は運動器不安定症を判断する基準として、TUGテストのカットオフ値を「11秒以上」と定めています。詳細は以下の通りです。
– 公益社団法人 日本整形外科学会 –「運動器不安定症の定義と診断基準」
- 定義
高齢化に伴う運動機能の低下によって、バランス能力や歩行能力が減少し、閉じこもりや転倒リスクが高まった状態。- 診断基準
運動機能の低下を引き起こす11の運動器疾患や状態の既往がある、または現在罹患している方が、日常生活自立度や運動機能に関して以下の機能評価基準に該当する場合に診断されます。[機能評価基準]
- 日常生活自立度判定基準 ランクJまたはAに相当
- 運動機能
- 開眼片脚起立時:15秒未満
- TUG(3m Timed Up-and-Goテスト):11秒以上
TUGテスト実施の際の注意点

TUGテストを実施する際の注意点についてご紹介します。評価を行う際には、以下の点に注意して測定を行いましょう。
- 最大の歩行速度を測定する際は、走らないように注意しましょう。
※もし走ったと判断された場合は、測定を中止し、再度測定を行ってください。 - 3メートル先のコーンを回る際には転倒に注意が必要です。
- 歩行中にふらつきが見られる場合は、転倒のリスクを避けるため、測定者が近くでサポートします。
- 椅子に座る際は、勢いよく座らず、転落や転倒を防ぐように注意を払いましょう。
- 数日後に再度TUGテストを実施する場合は、測定条件が前回と同じになるように配慮しましょう。
※例えば、椅子に肘掛けがあるか、ないかなど、条件が異ならないよう確認してください。
自立度の低い高齢者・片麻痺などの障害がある場合のTUGテスト
自立度が低い高齢者や、右片麻痺・左片麻痺などの運動麻痺を持つ方でも、TUGテストは実施可能です。TUGテストを行わなくても、カットオフ値を上回る明確な転倒リスクがある場合でも、現在の移動能力を客観的に把握する目的で記録しておくことは重要です。これにより、今後の変化やリハビリテーション、機能訓練の効果を測定するための参考になります。
転倒リスクに配慮し、測定者は測定中に寄り添ってサポートを行いましょう。また、杖や装具を使用している場合は、次回のTUG評価を同じ条件で実施できるように、使用している器具や条件を記録しておくことが大切です。
TUGテスト以外の転倒リスクの評価方法
TUGテスト以外で高齢者の転倒リスクを判断する方法は以下の通りです。
①Functional Reachテスト
測定方法は、足を肩幅に揃え、腕を肩関節90度に挙げた状態で行います。足を前に出さず、中指を目安に最大限にリーチした距離を測定します。このテストを3回実施し、最後の2回の平均値を求めます。
カットオフ値
- 虚弱高齢者の場合:18.5cm未満で転倒リスクが高い(参考論文:Thomas et al., Arch Phys Med Rehabil. 2005)
- 脳卒中片麻痺患者の場合:15cm未満で転倒リスクが高い(参考論文:Acar & Karats, Gait Posture 2010)
- パーキンソン病患者の場合:31.75cm未満で転倒リスクが高い(参考論文:Dibble & Lange, J Neurol Phys Ther 2006)
②継ぎ足歩行テスト
測定方法は、Wrisleyら(2004)の方法に従い、腕を胸の前で組んだ状態で3.6mの継ぎ足歩行を行い、最大10歩までの歩数を計測します。その後、4段階で評価します。
カットオフ値
- 3(正常):ふらつきなしに10歩可能
- 2(軽度バランス障害):7〜9歩可能
- 1(中等度バランス障害):4〜7歩可能
- 0(重度バランス障害):3歩以下
③ボルグバランススケール
バランスの複合的な要素を評価でき、信頼性が高いバランス評価ツールに「バーグバランススケール(Berg Balance Scale)」があります。
カットオフ値
- 最大スコア:56点
- 0-20点:バランス障害あり
- 21-40点:許容範囲内のバランス能力
- 41-56点:良好なバランス能力
まとめ
TUGテストは、高齢者や運動機能が低下した方の転倒リスクを予測するための重要なツールです。テストの測定方法は比較的簡単で、特別な機器も必要ありません。測定結果は、転倒リスクを早期に発見し、リハビリテーションの効果を評価するために非常に有用です。カットオフ値を理解し、適切に実施することで、今後のケアや介護計画に役立てることができます。