介護の基礎知識
訪問介護の重要事項説明書の記入例や雛形ダウンロード|契約書との違いや契約の流れとは
- 公開日:2025年05月08日
- 更新日:2025年05月08日

訪問介護事業所の開業準備を進めている皆様の中には、「訪問介護事業所で使用できる契約書や重要事項説明書のひな形はあるの?」「契約の進め方はどうすればいい?」「契約時に印鑑をもらう必要があるの?」といった疑問を抱えている方も多いかもしれません。
この記事では、訪問介護における契約書と重要事項説明書の違いや、記載すべき項目、利用者との契約締結の流れ、契約書作成時に注意すべきポイントなどについて詳しく解説します。
訪問介護事業所の「重要事項説明書」とは?

重要事項説明書とは、利用者との新規契約時の契約書の内容について具体的に説明するための書面です。利用者の新規受け入れ時に重要事項説明書やパンフレットなどを用いて、利用者様またはご家族に対してサービス内容や加算、減算等の説明を行うことが、介護サービス事業所の運営基準に含まれています。
【重要事項説明書の項目例】
・事業者の概要
・事業所の所在地等
・事業の目的や運営方針
・事業所窓口の営業日および営業時間
・サービス提供時間
・事業所の職員体制
・提供するサービスの内容
・介護従業者の禁止行為
・提供するサービスの利用料、利用者負担額
・加算、減算
・その他の費用(食費、おむつ代、キャンセル料など)
・利用料等の支払い方法
・サービス提供の留意点
・虐待の防止について
・秘密の保持と個人情報の保護について
・緊急時の対応方法について
・事故発生時の対応方法について
・心身の状況の把握
・居宅介護支援事業者等との連携
・サービス提供の記録
・非常災害対策
・衛生管理等
・業務継続計画の策定等について
利用者の新規受け入れの際は重要事項説明書の読み上げに加え、重要事項について丁寧に説明を行います。また、利用者様やご家族から質問があった場合には、疑問が解消できるように補足説明を行います。重要事項説明書の内容に関して、利用者様またはご家族の合意が得られた後に、署名などの手続きを行います。
各介護サービスの重要事項説明書の雛形は枚方市が公開しております。各事業所に合わせてカスタマイズしてご利用いただけます。
重要事項説明書変更同意書とは

「重要事項説明書」とは別に、「重要事項説明書変更同意書」というものが存在します。重要事項説明書変更同意書は、介護報酬改定などで算定する加算が変更になるなどの理由により、利用者負担額が変わる場合に既存の利用者に対して再度変更内容のご説明を行う際に必要な書類です。重要事項説明書変更同意書は新規加算を算定する際に提出が必要になる場合もあるため、算定する加算を変更する場合は算定要件をよく確認して、必要な書類を用意するようにしましょう。令和6年度介護報酬改定版の重要事項説明書変更同意書のフォーマットは、以下より大阪府の提供する書類をダウンロードしてご利用いただけます。
訪問介護の「契約書」とは?

訪問介護事業所の契約書は、介護保険サービスの一環として提供される訪問介護サービスを利用する際、事業者と利用者の間で交わす法的効力を持つ書類です。訪問介護の運営基準では「内容と手続きの説明および同意」が求められており、サービスを提供する前に、必ず契約書の内容を説明し、双方の同意を得る必要があります。以下は厚生労働省の公表している「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」です。
(内容と手続きの説明および同意)
第八条 指定訪問介護事業者は、指定訪問介護の提供の開始に際し、あらかじめ、利用申込者又はその家族に対し、第二十九条に規定する運営規程の概要、訪問介護員等の勤務の体制その他の利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を記した文書を交付して説明を行い、当該提供の開始について利用申込者の同意を得なければならない。
2 指定訪問介護事業者は、利用申込者又はその家族からの申出があった場合には、前項の規定による文書の交付に代えて、第五項で定めるところにより、当該利用申込者又はその家族の承諾を得て、当該文書に記すべき重要事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって次に掲げるもの(以下この条において「電磁的方法」という。)により提供することができる。この場合において、当該指定訪問介護事業者は、当該文書を交付したものとみなす。
一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機と利用申込者又はその家族の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された前項に規定する重要事項を電気通信回線を通じて利用申込者又はその家族の閲覧に供し、当該利用申込者又はその家族の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該重要事項を記録する方法(電磁的方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)
二 磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに前項に規定する重要事項を記録したものを交付する方法
3 前項に掲げる方法は、利用申込者又はその家族がファイルへの記録を出力することによる文書を作成することができるものでなければならない。
4 第二項第一号の「電子情報処理組織」とは、指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機と、利用申込者又はその家族の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。
5 指定訪問介護事業者は、第二項の規定により第一項に規定する重要事項を提供しようとするときは、あらかじめ、当該利用申込者又はその家族に対し、その用いる次に掲げる電磁的方法の種類及び内容を示し、文書又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
一 第二項各号に規定する方法のうち指定訪問介護事業者が使用するもの
二 ファイルへの記録の方式
6 前項の規定による承諾を得た指定訪問介護事業者は、当該利用申込者又はその家族から文書又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該利用申込者又はその家族に対し、第一項に規定する重要事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。ただし、当該利用申込者又はその家族が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
利用者にサービスを提供する前に必ず使用する書類であるため、訪問介護事業の開始前に契約書の様式を作成しておくことが重要です。訪問介護の契約書には主に以下の項目を記載します。
【契約書の項目例】
・契約の目的
・契約期間
・個別サービス計画の作成及び変更
・提供するサービスの内容及びその変更
・利用料等の支払い
・利用料の変更
・利用料の滞納
・利用者の解約権
・事業者の解約権
・契約の終了
・損害賠償
・守秘義務
・苦情処理
・サービス内容等の記録の作成及び保存
・契約外条項
・利用者の氏名
・事業者の代表者氏名
など
訪問介護の契約書の雛形は埼玉県が公開しておりましたので、以下よりダウンロードして、事業所に合わせてカスタマイズしてご利用いただけます。
訪問介護の「重要事項説明書」と「契約書」の違い
訪問介護における「重要事項説明書」と「契約書」は、それぞれ役割が異なります。契約書は、訪問介護サービスの利用に関して利用者の同意を得るための書類です。一方、重要事項説明書は、契約を結ぶ際に事業所が説明しなければならない重要な情報を記載した書類です。
重要事項説明書には、契約書よりもさらに詳しく、事業所の体制やサービス内容について具体的に記載されており、利用者やご家族が「この事業所と契約しても問題ないか?」という疑問を解消するための役割も担っています。
利用者様との契約の際に必要な書類
利用者様との契約の際に必要な書類は以下の通りです。
- 重要事項説明書
- 契約書
- 個人情報同意書
重要事項説明書・契約書は前述した通りですが、「個人情報同意書」とは、事業者が利用者の個人情報を収集、利用、または第三者に提供する際に、利用者から同意を得るための書類です。これは、個人情報保護法に基づいて作成されるもので、利用者のプライバシーを保護する重要な役割を果たします。同意書には「どのような目的で個人情報を使用するのか」を具体的に記載します。これにより、事業者は利用者が同意した範囲内でしか情報を使用できなくなり、不適切な利用が防止されます。
訪問介護の利用者様との契約の流れ

訪問介護事業所が利用者様やご家族と契約を結ぶまでの流れは以下の通りです。
①契約に必要な書類のフォーマットを作成する
まず、契約書や重要事項説明書のフォーマットを作成します。これらの書類には、契約に関する重要な情報を記載する必要があります。作成したフォーマットの内容に不安がある場合は、所轄官庁へ相談しましょう。また、契約時には、利用者様の個人情報の利用目的や条件を定めた「個人情報同意書」の準備も忘れずに行います。
②利用者様またはご家族との面談を行う
利用者様やそのご家族と面談を行い、以下の情報を収集します。
- 利用者様の心身の状況
- 生活環境
- 他の保健医療サービスや福祉サービスの利用状況
- ご家族の要望
これらの情報をもとに、事業所が提供するサービスの内容や提供範囲について説明し、利用申込の意思を確認します。
③契約書と重要事項説明書の印刷・準備
契約を行う前に、以下の点に注意して契約書および重要事項説明書を準備します。
- 契約書と重要事項説明書は2部作成する。
- 書類が複数ページにわたる場合は、ホッチキスや市販の契約書テープなどで製本する。
④説明および契約の締結
面談を通じて事業所の内容を理解していただき、利用申込が確認できたら契約へと進みます。契約時には、契約書・重要事項説明書・パンフレットなどを用いて契約内容を丁寧に説明し、利用者様やご家族の同意を得たうえで契約を取り交わします。契約の説明は、事業所の事業内容に精通しているサービス提供責任者が担当することが一般的です。契約書と重要事項説明書には、以下の対応を行います。
- 利用者様の署名・捺印をいただく。
- 訪問介護事業所の法人印を押印する。
- 2部作成したうちの1部は事業所が保管し、もう1部は利用者様またはご家族へお渡しします。
契約書は電子化が可能
訪問介護サービスにおいて、事前に利用者様やご家族の承諾を得ることで、契約書の電子化が可能になりました。利用者様への説明および同意の取得については、原則として電子的な対応が認められています。その際、署名や押印は不要とすることができ、必要に応じて代替手段を提示することも求められています。各種記録の保存および交付についても、原則として電子的な対応が認められています。
訪問介護の契約書・重要事項説明書についての注意点

訪問介護事業所で契約書・重要事項説明書の注意点は以下の通りです。
重要事項はホームページまたは情報公表システムへの掲載が必須
令和6年の介護報酬改定に伴い、重要事項説明書に記載されている重要事項などの情報は、法人のホームページまたは情報公表システムへの掲載が義務付けられました。事業者は、利用者やそのご家族が必要な情報に容易にアクセスできるよう、正確かつ最新の内容を公開する必要があります。
数値の記入ミスに注意する
契約書や重要事項説明書には、事業所の情報や利用料金などの数値を記載します。特に、契約日時点での正確な数値を記入することが重要です。とりわけ、人員配置に関しては、職員の入社や退社により変更が生じる可能性があるため、その都度最新の情報を確認しましょう。
不備があると運営指導で指摘される可能性がある
契約書や重要事項説明書の適切な作成は、運営基準で定められています。数年に一度行われる運営指導(実地指導)では、契約書や重要事項説明書の内容が確認され、サービス提供前に利用者様へサービスの内容を説明し、同意を得ているかが確認されます。
そのため、契約書や重要事項説明書の内容に不安がある場合は、指定権者へ相談するのも一つの方法です。例えば、兵庫県では「重要事項説明書及び契約書のガイドライン(令和6年版)」を公開しています。
運営指導(実地指導)で確認される契約書関連の項目
運営指導では、指定権者が事業所を訪問し、指定基準の遵守や介護報酬の適正な請求が行われているかを確認します。以下のような項目が確認対象となるため、しっかりと準備しておきましょう。
確認項目 | 確認文書 |
---|---|
利用申込者またはその家族への説明と同意の手続きを取っているか | 重要事項説明書(利用申込者または家族の同意が確認できるもの)、利用契約書 |
個人情報の利用について、利用者およびご家族から同意を得ているか | 個人情報同意書 |
利用者様やご家族が理解しやすい内容にする
契約書や重要事項説明書は、利用者様およびご家族に内容をしっかりと理解してもらうことが重要です。そのため、文章はできるだけ平易な表現を用い、専門用語や外来語には解説を加えるとよいでしょう。さらに、高齢者の方が読みやすいよう、フォントサイズや文字の色にも配慮することが大切です。
訪問介護の契約書・重要事項説明書に関するよくあるご質問

Q1.契約書や重要事項説明書に押印をしなくても、法律違反にならないの?
特別な決まりがない限り、契約の際に押印がなくても契約の効力には影響ありません。契約は、当事者同士の意思が合致すれば成立するもので、押印は必須ではありません。介護サービスの契約書についても、押印欄をなくして署名のみで問題ないと周知している指定権者もいます。契約書の押印欄を省略する場合は、念のため指定権者に確認しておくと安心です。
まとめ
契約書は、訪問介護サービスの利用に関して利用者の同意を得るための書類です。一方、重要事項説明書は、契約を結ぶ際に事業所が説明しなければならない重要な情報を記載した書類であり、契約書よりもさらに詳しく、事業所の体制やサービス内容について具体的に記載されています。利用者の新規受け入れの際は重要事項説明書の読み上げに加え、重要事項について丁寧に説明を行い、利用者様やそのご家族の疑問が解消できるように努めましょう。